2026年6月24日(水)

デジタル時代の経営・安全保障学

2026年6月24日

同盟国・同志国への影響と中国との競争

 第三に、米国のフロンティアAI開発企業や米国政府が、AIモデルへのアクセスをどこまで許容するか、である。中国等のライバル国企業へのアクセスは検討の遡上にも上がらないだろうが、争点は同盟国・同志国の重要インフラやサイバーセキュリティ関連企業である。

 Mythosについては、これまで三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクとトレンドマイクロがアクセス権を得ているという。Open AIは、サイバー防衛特化型AIモデル「GPT-5.5-Cyber」について日本政府や重要インフラ事業者の導入に向け協議予定だ。

 政府は幅広い重要インフラによる最先端AIモデルへのアクセスを求め続けるだろうが、これは難しいかもしれない。フロンティアAIモデルの開放性・公開範囲を高めることがリスクとなるという前提に立てば、米国産最先端AIの公開範囲は米国の安全保障を維持・改善する範囲においてであろう。

 システミックリスクを引き起こしうる金融業界、安全保障に直結する通信業界・防衛産業、サイバーセキュリティに関連するソフトウェアベンダ・クラウドサービスプロバイダー等はアクセス権を得られるかもしれないが、フロンティアAIのアクセスが日本の重要インフラ15種全てに拡大するというのは楽観的だろう。

 第四に中国企業による脆弱性発見・エクスプロイト生成で高度な能力を持つAIモデルの開発・獲得である。中国は日本や米国等に対して、最も洗練されたサイバー攻撃を継続してきた。それは、ハイバリューターゲットの通話記録や国民データへのアクセス・諜報活動、知的財産の強制移転と産業スパイ活動、有事を見据えた重要インフラへの「前方配置」と多岐にわたる。中国の軍や情報機関はこうしたサイバー攻撃キャンペーンに民間のリソースを多いに活用してきた。

 25年2月、DeepSeekの大規模言語モデルR1が一時的に米国最先端モデルに近い性能を発揮した。スタンフォード大学の調査では、今日まで、米国産の先端モデルが中国産をリードしているが、過去1年間のリード幅は一桁%台にとどまっている。

 別の能力評価では、最先端モデルは全て米国で開発され、中国が同水準のモデルを開発するまでに要した期間は平均7カ月だ。ただし最小差は4カ月で、最大差は14カ月である。

 仮に6月2日の大統領令が「90日間」の審査期間を与えていれば、公開時点の格差は短縮される。ポリティコによれば、中国は「せいぜい6~12カ月」でMythosやGPT 5.5-Cyberに相当するモデルを開発ないしアクセスするとみる。中国企業によるフロンティアAI(ないしMythos級モデル)の開発は、サイバー安全保障を劇的に変化させる可能性がある。

 多くの企業がフロンティアAIの開発状況とアクセス範囲を注視している。その際、ベンチマーク評価や経済合理性に加えて、従来以上に国家安全保障ファクターが重要性を増していることを再確認すべきだ。(脱稿日:2026年6月14日)

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