2026年8月12日(水)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2026年8月12日

 企業の動きも活発で、熊本に工場がある半導体大手台湾積体電路製造(TSMC)は2億5000万円の寄付を表明。大手金融グループ「富邦金融ホールディングス」が1億円、チャイナエアラインが1000万元と無償での救援物資の輸送を表明。中国信託銀行と系列の東京スター銀行が共同で5000万円、玉山金融グループ、台新新光がいずれも3000万円、その他複数の金融機関などが寄付を表明している。

 これだけの政府部門、政治家、企業がこの一週間で支援を表明している背景の中には場所が熊本、九州という点も一つの鍵になっているようだ。

 前述の寄付拠出の地方政府の中で、高雄関係の動きが突出しているのは、熊本県と高雄市が友好都市協定を結んでおり、日常的に頻繁な交流が行われている。さらに熊本にはTSMCが進出してから、台湾と熊本の関係は急接近している。

 この数年、熊本や福岡に台湾の金融機関が軒並み拠点を開設している。高雄選出の立法委員の多くが個人的に寄付を表明しているのはそうした事情からだ。

 現在、台湾と熊本との間では週に30便近い直行便が飛んでいる。半導体ビジネスでの往来が活発である上に、台湾の人々にとって、温泉があり、阿蘇があり、食も豊かな熊本が人気の観光地で、熊本のイメージキャラクターのくまモンも台湾で大人気だ。熊本地震発生直後、台湾からの救援隊派遣の準備に入った時、「くまモン」と「台湾熊」をあしらった応援ロゴまで作られたほどだった。こうした熊本の身近さも支援の輪が急速に広がった一因であるだろう。

国際情勢、台湾政治の事情も

 台湾が現在置かれている国際環境と台湾内政の事情が絡んでいる部分もある。

 現在の民進党・頼清徳政権は日本に対して友好的な立場を示している。中国とは対立関係にあり、米国とは良好な関係ではあるが、6月の米中首脳会談以来、トランプ大統領は台湾への武器供与について思わせぶりな言葉を語るだけで動きを見せておらず、出方が読みにくくなっている。

 一方、「台湾有事発言」を行って台湾の安全への関与を語った高市早苗首相のいる日本への期待は大きい。加えて、台湾は今年11月に重要な統一地方選挙を控えており、各政党や候補者にとっては、有権者の熊本地震への関心が高まっていることは当然、応援する姿勢を見せるモチベーションが高まるし、他の政党に比べて出遅れてはならないという思いはあるだろう。

「まさかの時の友は真の友」

 ただ、こうした政治的な動機はあくまでも補助的な要因であろう。根本にあるのは、民間の強い思いであることは間違いなく、東日本大震災の支援も能登半島地震への支援も、民間の少額募金が大半を占めていた。

 台湾における日本側の窓口機関である日本台湾交流協会が25年に行った世論調査では「最も好きな国・地域」で日本を選ぶ割合が76%(1位)に達した。日本において台湾側の窓口機関台北駐日経済文化代表処が行った世論調査でも「アジアの国・地域の中で、あなたがもっとも親しみを感じるのは」という質問に対し、日本人の44%(1位)が台湾と答えている。

 こうした相互感情の発露が地震の際の支援行動であり、台湾側がよく使う「まさかの時の友は真の友(患難見真情)」という言葉に表されている。日本と台湾の震災支援は、外交関係がないからこそ、逆に民間が主導して作り上げた異例の関係性であり、現在の「日台友好」の熱気を体現した現象だということができるだろう。

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