2024年4月29日(月)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2009年6月30日

細田 主人公に「あ、セミが鳴いている」と言わせたり、「ひぐらしの声ね」なんて言わせることは、やろうと思えばできますが、そんなこと日本人はいちいち言いませんよね。
この、言わなくたってわかるものというのが、日本のアニメーション映画の場合とても多く含まれて豊かな情感を構成しているので、それが果たして理解されるだろうかと思いました。

でも案外、日本人の受け止め方に近いという印象をもっています。これは僕にとって意外なことであるし、嬉しいことでもありましたね。

司会 それから今回の異次元世界は、それはスケールの大きいもので…

浜野 大スクリーンで見たいね。

家族が歴史を継いでもつ底力

力をあわせて敵と戦う大家族(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

司会 ええ。本当に微細に描かれた異次元世界の構造物が、どんどんと日本の城館みたいに変わっていくところなど圧巻としかいえない。

細田 出てくるのは戦国武将の末裔だってことを誇りにして生きてきた人たちです。そういう家族にはきっと歴史を継いでもってきた底力、活力みたいなものがあって、その人たちの戦い方ってどんなだろうと考えたら、あんな形になりました。

浜野 ハリウッドでもスティーブン・スピルバーグ監督はじめいろんな人が異世界を描こうとしているのだけど、どうも鮮烈な印象を残さない。細田監督のには、見ただけで「細田ワールド」だと思わせるものがあるります

でもそれは、説明的というのじゃない。また黒澤監督の話をすると、黒澤映画には使われている甲冑一つひとつにウンチクをつけようとすればつくし、「影武者」は武田信玄についての話だって解説することはできるわけで、アタマのいい人が作ると得てしてそういうところを解説してしまう。

でも、黒澤監督はそれをやらなかった。なぜかって言うと描きたいのは普遍的な人間ドラマだから。僕は細田監督も同じだと思う。今度の作品では「セカンドライフ」というヴァーチャル空間にモデルをとっているようだけど、別にくだくだ説明しない。

そういう説明的なところを全部後ろにしまって、エンターテインメントにして、人間ドラマにする。だから黒澤作品にしろ細田作品にしろ、国境を越えてファンを獲得するんだと思います。

司会 しかも今回の作品は、いわば地球存亡の危機に一族総出で立ち向かうんだけど、結局血の一滴も流れません。それが爽快感になっている気がしました。

細田 そうですね。そこはエンターテインメントをつくるときの節度として…。子供たちも見ると思うので、気持ちよく見ていただけるものをこしらえないといけないと思います。

浜野 それは東映動画以来の心構えですか。

細田 そうだと思います、明らかに。

司会 やはり作風として、見終わった後にポジティブな気持ちを残すという…

家族には危機を乗り越える力がある

細田 そういう気持ちがあります。「家族」というものについてこの頃ニュースなんかに出てくる話は、どうしても暗い、問題ばかりでしょう。せめてアニメーションや映画の中でだけは、家族のバイタリティーをポジティブに描いて、みんなが共有できるようにしたいなと思うのです。家族には危機を乗り越える力があるんだ、っていう、それは真実だと僕は信じているので。


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