2024年7月23日(火)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2009年6月30日

浜野 それを聞いて強く思うのは、最近の邦画作品で言うと夫婦の何気ない生活を描いた「ぐるりのこと。」(橋口亮輔監督)とか、「パコと魔法の絵本」(中島哲也監督)とか、状況は結構悲惨だけれど、それでも家族力を合わせて生きようっていう応援歌になってるのが多い。でもアメリカ映画は今、出口がない。素晴らしいと思った「ダークナイト」(「バットマン」シリーズ最新作)、殺戮それ自体がテーマのような「ノーカントリー」、それからクリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」の3つね。どれも映画としては傑作だけど、そこには家族の救いなんかないし、警察も当てにならず、まるでアメリカは「地獄」みたいに描かれている。細田監督たちが描こうとしているポジティブな世界と、全然違うんですね。

頑張ろうとする人に励ましのメッセージを送る時

司会 なるほど。日本はこれだけ不況ですけど、日本人はやはり若者の成長ですとか、家族の愛情ですとか、そういう明るい面を見ていきたいと思っている、ということでしょうか。

“日本人に必要なこと”を語る
細田守監督

細田 日本人って、特に戦後はそうだったと思うんですけど、非常に自分に対して批判的に生きてきたと思います。謙虚な態度でもあったと思うんですけど、自己否定を続けているとだんだん息苦しくなってくる。人間にはもともと、頑張って、幸せになりたい欲望があるでしょう。それを励まし、伸ばそうとすることは自然なこと、いいことだと思うんです。そこをちゃんと言わなくちゃいけないところに、僕は日本は来ていると思います。逆にアメリカ人がいま、「自分たちのやってきたことは、果たして間違いではなかったか」とものすごく内省していて…

浜野 「グラン・トリノ」はあそこまでよく描いたと思う、偉い。

細田 ええ。ああいう内省する人たちというのは、僕は気高いと思いもするんですけどね。

浜野 日本映画は日本人に励ましのメッセージを送るべきだっていう、そういうことを言えるようになるのに、僕は新旧世代の交代が必要だったんだと思う。細田さんとか、橋口亮輔さん、中島哲也さんのような新しい世代が出てきてから、なんですよね。現代アートの村上隆がうまいこと言ってたけど、「日本にはすべてがある」、と。何もかもあるのだけれど、「希望だけがない」。
僕はこの3人(細田、橋口、中島)の作品を見て、希望を語る世代が現れたと思ったわけです。

※文中敬称略
第4回(最終回)につづく>

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