停戦発効後も散発する戦闘
このように形勢が逆転するなか、「テロリストとは交渉をしない」と親露派との交渉を断固拒否してきたウクライナ政府も、親露派と和平を結ぶ以外の選択肢がなくなった。ロシアのプーチン大統領、ポロシェンコ大統領は共に停戦および和平を進めて行くことで合意し、9月5日にはベラルーシの首都・ミンスクで4者(ウクライナと親ロ派、ロシア、欧州安保協力機構(OSCE))による和平の調整にあたる「連絡グループ」の会合が開催された。
「テロリストとは交渉しない」と言い続けていたウクライナ政権が、親露派と同じ交渉のテーブルについたことは極めて大きな転換点であるといえるが、ウクライナ政権の代表として交渉に臨んだのはクチマ元ウクライナ大統領であった。つまり、ウクライナ政権側は、現職者を交渉にあたらせないことで、面子を何とか保とうとしたと考えられる。他方、親露派を代表したのは「ドネツク人民共和国」のザハルチェンコ「首相」とプルギン「副首相」、ルガンスク「人民共和国」のリーダー格であるプロトニツキーであり、仲介者としてズラボフ駐キエフ・ロシア大使とOSCEのタリヤヴィニ特別代表が立ち会った。
プーチン、ポロシェンコ大統領双方が独自プランを持っていたこともあり、交渉は難航し、議論は4時間以上にも及んだが、結局、12項目からなる覚書が調印され、ウクライナ時間の5日午後6時(日本時間6日午前0時)に停戦が発効した。覚書は9月3日にプーチンが提示した段階的な停戦案が基礎となっており、双方の全捕虜の交換、OSCEによる停戦の国際監視、市街地からの軍部隊の撤収などが含まれている。
このような停戦は、ウクライナ政権にとってもちろん屈辱的であったが、ロシア軍の支援で親露派が進撃を進める中、もはや選択肢はなかった。ポロシェンコ大統領は停戦を受け、「ウクライナの主権や領土の統一にとって重要だ」と発言し、統一ウクライナ維持が最大の目的であったことをうかがわせると共に、東部の二州での経済や言語使用の自由を認める考えも表明した。プーチン大統領も停戦を歓迎した。
しかし、実態は停戦状態とはほど遠い。捕虜の交換は比較的順調に行なわれており、ロシア軍も少なくとも7割程度が撤退したとされているものの、東部では散発的な戦闘が停戦発効直後から発生しており、ウクライナ軍、親露派の双方に攻撃情報が出ている。一般人はもちろん、停戦を監視しているOSCEも危険にさらされ続けている状況だ。後述のように、関係者の今後の展望にも大きな乖離がある。