しかも、ロシア側からの親露派への物資供給は続いているし、ウクライナ政府もNATO加盟国の5カ国、つまり米国、フランス、イタリア、ポーランド、ノルウェーから近代的兵器の供給や軍事顧問の派遣を受けていることを明らかにしている他、グルジアもウクライナに防弾チョッキやヘルメットを含む人道援助の供与を行なっていることを発表している。諸外国も停戦の実効性に疑念を抱いているのは明らかであるし、「停戦」中に戦闘態勢を立て直して、また攻勢に転じるつもりだとお互いに批判し合っている。
欧米のロシアへの不信と気遣い
そのような停戦への疑念は欧米の対露不信感と直結している。停戦が発効した9月5日、米国とEUは対露追加制裁の準備が整った事を発表したのである。追加制裁の内容は、EU金融市場へのアクセス制限、武器禁輸、軍事転用可能な民生品の輸出制限、エネルギー分野での技術輸出禁止などで、既に発動している経済制裁の内容を強化した形となっているほか、ウクライナ東部の親露派に関与する24人にも渡航禁止、資産凍結も実施している。ただ、その追加制裁はすぐには発動されず、発動するか否かはウクライナ東部での停戦とそれに続く緊張緩和の状況次第だとされた。停戦発効その日の追加制裁の用意の発表に、ロシア側が反発したのは言うまでもない。
だが、ロシアの停戦における姿勢を様子見していた欧米は結局追加制裁の発動に踏み切った。一応の停戦は守られているものの、散発的な武力衝突やロシアからの補給が続いていることから、9月10日にEU高官の間で長時間にわたる議論が行なわれ、11日にEUは対露追加制裁の発動で合意し、12日から適用することとなった。その内容は8日に承認されたものと同じである。なお、EUはロシアがウクライナ危機に関して政治的解決に向け、積極的な行動をとる場合には、追加制裁の即時撤回の用意があるともしている。
また、NATOも5月くらいから東欧地域の対策を重視しはじめ、6月頃からはロシアの動きに対し、新しい対露政策を検討していたが、様々な形で対露政策を強めている。たとえば、9月8日から10日までは黒海のウクライナ沖でウクライナ軍と米軍などが海上合同軍事演習「シー・ブリーズ」を行なった。15日からは26日までの予定で、ウクライナの西部・リヴィウ州において米国などNATO加盟国やウクライナ・グルジア・モルドヴァというNATO非加盟国ながらの親欧米路線をとる旧ソ連諸国の計15カ国・約1200人による合同軍事演習「ラピッド・トライデント」が始まった。米国は以前から予定されていた演習だとしてロシアを牽制する意図を否定するものの、ロシアはもちろんそのようには受け取っていない。
その一方で、ロシアに対する気遣いも見られる。たとえば、EUとウクライナは、9月12日に、EU連合協定の柱となる自由貿易協定(FTA)の仮発効を今年11月の予定から2015年末まで延期することで合意した。これはEUとウクライナ、ロシアが12日の閣僚級会議で決めたもので、同協定のロシア経済への影響を危惧するロシアに配慮し、実効的な停戦を促進することを優先したと見られている。ただし、EUへ輸出時の関税削減というウクライナが既に享受している優遇措置は継続される。