日本も更なるジレンマへ
先月の拙稿「マレーシア機撃墜事件で悪化した日露関係」では、日本が8月5日に発動した対露追加制裁への報復措置を例外的にロシアが見送ったと書いたが、その後、8月22日にロシアは対日報復措置を発動した。具体名は明かされていないが、日本政府当局者や国会議員計23人のロシア入国を制限するという措置である。
だが、その一方で、ロシアのラブロフ外相が8月25日に「秋に予定されていたプーチンの訪日の予定は変わらない」と発言するなど、ロシアは日本に様々なボールを投げて日本の出方を見ているようだ。日本が4月に予定されていた岸田外相の訪ロを延期したままにしつつ、追加制裁まで行なっている中で、事実上プーチン訪日は不可能に思える中でも、ロシア側は日本との関係維持の窓はいつでもあけて待っているというポーズを示したのである。つまり、日本がプーチンに対して明確な招待の意思を再度示し、歓迎するのであれば、プーチンは間違いなく訪日するはずだ。選択権は日本が握っており、全ては日本の態度次第であった。ロシアはそんな日本を試している。
だが、日本はまた、米ロ間のジレンマに苛まれている。米国は公には、プーチン訪日は日本に任せるとしているが、日本は米国の本心を察し、ロシアが開けている窓に向き合えていないのである。
そんな中で、プーチンの側近の一人であるマトビエンコ上院議長は9月10日に、日本の漁船にも許可されてきたロシア水域での流し網漁業を段階的に禁止する法案を議員立法で下院に提出すると述べた。これも、事実上の対日報復措置だと見られている。
また、9月11日のロシア政府が発行している『ロシア新聞』には、アファナシエフ駐日大使がプーチンの訪日は延期されると発言した内容を含むインタビュー記事が掲載された。これに対し、岸田外相は同日、延期は決定していないと反論したが、この動きも日本に選択を迫る圧力とも考えられるだろう。何故なら、このままだと訪日は実現しないという事実上の圧力をかけながらも、現状では一大使の個人的見解という見方も出来るため、日本の出方次第ではプーチン訪日を実現することも可能だからだ。
そのような状況のなかで、岸田外相は訪問先のドイツで、9月9日にカウンターパートのシュタインマイアー外相と会談し、ウクライナ危機に対し、ロシアの協力を共に求めていくと共に、G7メンバーとして対露追加制裁についても検討するという意向を表明した。日本もドイツも、ロシアとの関係を重視したい、つまり対露制裁は極力避けたいという立場を共有しており、本会談では日独がロシアに対してどのような姿勢をとるのかが注目されていたが、ロシアにとっては望ましくない展開となった。日独両国もやむなく対露強硬姿勢を示したと言って良い。