議員は、東京電力が企業体として存続している現状を批判し、破綻処理・法的整理をして株主や債権者等の利害関係者が「責任」を果たすことを前提に、「国が引き受けること」を主張している。事故前の法律や契約に基いて行動した関係者に対しどう「責任」を問うのかも、税金という集金システムを使う場合と東電管内の消費者に対して電気料金という集金システムを使う場合では負担のあり方が全く異なることも、そして、国が廃炉事業を引き受けてどうマネジメントしていくのかについても、具体策については言及がない。そのため議員の論に一つ一つ反証をしていくことはできないので、そもそも論から述べることになることをご容赦いただきたい。
なぜ東京電力は破綻処理・法的整理されなかったのであろうか。それには既存の法秩序、すなわち原子力損害賠償法がどのように規定していたかを知る必要がある。
原賠法の目的は
「被害者保護」と「原子力事業の健全な発達」
ここで簡単に原子力損害賠償法(以下、原賠法という)という法律について(できるだけ)簡単に解説する。
原子力損害賠償制度は、原子力平和利用に関する歴史的経緯から、多くの原子力発電導入国においてほぼ共通する制度となっている。目的は「被害者保護」と「原子力事業の健全な発達」の2つ。そのために、事業者の責任を厳格化(無過失責任・免責事由の制限・責任の集中)する一方、保険等による賠償措置を義務付けることで、事業者の経済的負担の一定範囲を保険等に転嫁し、さらに、一定の事由によって原子力損害が生じた場合あるいは一定額を超える負担が生じる場合には国家補償というかたちで国が関与することを明示し、原子力事業経営に予見可能性と安定性を与える構成となっている。
しかし日本の原賠法は、事業者が負担すべき上限額に関する規定はなく(=事業者は「無限責任」を負うとされる)、国家の関与についての規定も明確ではなかった。国の措置について定めた原賠法第4章第16条は、「政府は、(中略)原子力事業者が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため 必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。」とし、事業者が免責となった場合(第三条第一項ただし書適用の場合)には「(略)被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする」(下線等筆者)としている。
「国会の議決によって認められる範囲」で行われるということしか定められていない政府の「援助」の内容を初めて具体化したのが原子力損害賠償支援機構法(以下、機構法)である。機構法成立に伴い、政府と東京電力を含む原子力事業者12社が資金を拠出して、原子力損害賠償支援機構(以下、機構)が設立された。政府は交付国債を発行し、機構を通じて東京電力への資金援助が行われることになっているが、この資金は将来国庫に納付することが求められており(機構法第59条第4項)、政府の公的資金による東京電力救済というよりも、「つなぎ融資」としての意味合いが強い。