2023年2月5日(日)

Wedge REPORT

2014年10月7日

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市川家國 (いちかわ・いえくに)

理化学研究所・研究不正再発防止のための改革委員会委員/ 信州大学特任教授

慶應義塾大学医学部卒業。ハーバード大学准教授、バンダービルト大学教授、東海大学医学部教授等を経て現職。米国の研究倫理教育に詳しく、CITI Japanプロジェクト副統括も務める。

アクションプランに対する評価

 6月に改革委員会が提出した「研究不正再発防止のための提言書」に対する回答として、理研は8月末、「再生のためのアクションプラン」を発表した。筆者は、内容はよくできていると評価している。残る問題は、発表までに時間がかかりすぎたことと、誰がこのプランを実行するかの2点である。

 改革委が指摘したのは、一言で言えば、管理職のマネジメント能力不足だった。時間がかかった原因もまさにこれだ。

 理研は4月の段階からSTAP現象の有無を確かめる「検証実験」を始めた。なぜ不正調査の対象が論文上の一部の疑義に留まり、徹底した事実の解明を行わないのか。一方で、それとは直接関係がない検証実験だけがなぜ進むのか。多くの大学人が抱くこの不満を筆者は共有する。理研とわが国の科学に対する信頼回復へ向けた本気度を世界に示すには、疑惑解明と組織改革もさることながら、検証実験を行うに至る理研内の動きを検証することが必要になったと考えている。

 理研改革の道が多難であることは想像に難くない。まず、組織内の認識。狂牛病事件を例にとるまでもなく、「一件の不祥事が、全体への信用を失墜させ、その回復には全体による極めて大がかりな取り組みが必要となる」……経験した者が持つこの常識を組織内で共有できるか。監視、教育、審査等の新たな役目を仰せつかる研究者が、どれほどその務めを果たすのか。

 極めて反応が遅く、一般企業であれば倒産の憂き目を招いたと思える経営陣。彼らが今のポストに居座りたいなどというエゴと言ったものを持っているとは到底思えない。彼らはむしろ、慣れない責務に対して憔悴し、もうウンザリであるはずだ。

 そこで、新たな管理運営の組織作りということになるのだが、「わが国のエリートは、単線鉄道のエリート」と評される中にあって、研究者が管理能力を系統的に学べるようなシステムは存在しないから、極めて小さい人材プールから適材を選ぶことになる。その上、現在のわが国のメディア環境がある中で、敢えて火中の栗を拾う意欲を持った有能な人物がどれほどいるだろうか。

 当初、調査委員会の委員長であった石井俊輔氏は自身の過去についての詮索にあい、忘れていたような数年前の過誤を理由に委員長辞任に至った。このようなことに覚悟を持つ人物が現れるのであろうか。自分の部下が、大学院生が、何をやっていたかをすべて正確に把握している研究者なぞいないというのが現実であろう。

 となると、自身の研究室を遠い昔に閉じた老齢者となるのか。小保方氏によって不正防止の欠如という不都合な真実を、課題としてハーバードから持ち込まれてしまった理研の大人たちはどのような英知を働かせるのであろうか。


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