特に軍においてそうした認識が強い。山積する中国の国内問題が喫緊の課題だという将軍の論調(2013年10月30日記事)を紹介したことがあるが、まさにこの艾虎生将軍こそが天安門事件時に切り込み隊長として戒厳部隊の露払い役として天安門に馳せ参じた人物である。そうした功績が認められて昇進したのであり、30年以上実戦経験のない軍において彼のような実戦経験者は貴重な存在だ。
それとは対照的に軍のトラウマとなっているのが、北京近くの保定市に駐屯する機動部隊38軍のトップ、徐勤先将軍の出動拒否事件である。徐将軍は天安門で流血の事件が起きる直前に出動命令(1989年5月19日)を拒否して軍法会議にかけられ懲役刑に服した。軍には騒乱に際して軍中央の命令にそむいた「反逆者」が出たという苦い教訓となっており、彼のような指揮官が二度と出ないよう「党の軍に対する絶対指導」を誓わせ、指導者への絶対服従という揺るぎない政治的信条と忠誠が求められており、それゆえ前述の香港駐屯部隊でも政治思想教育が重視されているのである。
「戦って勝てる軍隊を目指せ」とげきを飛ばす習近平政権において戦う準備ができているとの主張はやる気を示す意味でも、忠誠を誓うという意味でも重要である。こう考えるとデモ鎮圧に軍隊が出動する可能性は排除できず、そうした根拠が私たちとは全く異なるロジックに基づくという前提で事態の推移を見極める必要があるだろう。