中央大学の白井宏教授も「物心ついたときからゲームや高機能携帯が目の前にあり、ゼロ円ケータイのように価格がいつも下がり、差異化はデザインやサービスのみ、というのを体感している世代に、技術者の苦労と喜びを伝えるのは難しい」と語る。「技術革新がもたらした技術軽視」という皮肉に、多くの大学関係者は戸惑いを隠せない。
ゆとり教育も暗い影を落としている。ちょうどいま、就職活動を行っている大学4年生は、ゆとり教育が本格的に適用された「第一世代」と呼ばれている。その評価は「陽気」「諦めが早い」と肯定、否定さまざまで、確定的なことはいえないが、微分・積分など基礎が不十分ということだけは確実だ。上位校から下位校まで各大学は、推薦入学者向けの入学前教育や入学後補習などの対策に追われている。一方で先端分野は進化しているから、大学教育への負荷は年々重くなっている。
自ら首を絞める業界
しかし、問題は教育だけにあるのではない。教育の劣化は工学部、電気系だけに影響を与えているのではないからだ。
本当の問題は、エレクトロニクス業界の無為無策にある。
総合電機も通信も半導体も、バブル崩壊以降、抜本策を打てないまま小出しのリストラばかりを続けてきた。ITブームや、円安といったプチ好景気は、いつも数年で崩壊し、そのたびに工場閉鎖や人員削減に追い込まれている。技術者の待遇の悪さや、システムエンジニアの悪環境は知れわたっている。新たな地平を切り拓けないまま、価格下落と新興国との競争に従属的に巻き込まれる姿をさらした結果が、学生の人気低迷となって現れているのではないか。
金融危機以前の好景気を受け、若干ではあるが人気は回復傾向にあった。しかし、景気悪化を受けて各社がすぐさま採用数大幅抑制に走ったことが、それに水を差すのは間違いないだろう。
ある就職支援企業によると、リーマンショック後、外資系金融を希望する理系学生は著しく減ったたという。ではメーカー回帰が起きたかというとそうではない。理系優秀層は日系の金融、コンサル業界、さらには、この数年、投資事業への傾斜で理系採用を強化している商社に次々と囲い込まれている。
「ソニーに行きたいという学生をすっかり見なくなった」――上位、中堅問わず、多くの大学関係者から発せられたこの声が意味するものは何か。資源の少ない日本が技術立国でこれからも生き延びなければいけないのは論を待たないが、その足元がどれだけぐらついてきているか、覚悟すべき時期に来ている。
◆本記事は、「WEDGE」2009年7月号に掲載した同名の記事に(注)の部分を加え、アップデータしたものです。
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