2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年11月14日

 ちなみに、中国がAPEC準備のために国内でとった一連の措置からも、その成功にかけた習主席の意気込みが窺える。たとえば会議開始の10日前から、北京市内で車のナンバーによる交通規制が始まったが、それは当然、会議中の北京の大気汚染を軽減するための措置だ。実は同じ目的で、北京周辺の河北省では、大気の汚染源となる鉄鋼産業などの「汚染産業」の工場が一斉に操業停止を命じられた。それらの措置のもたらす市民生活の不便や経済的損失の大きさが察して余るところであるが、どんな代価を払っても、習主席は中国外交の起死回生のためには、このAPECを成功させなければならなかったのである。

「すべての隣国と仲良く」

 そして11月9日、APEC首脳会議開催の前日、習主席は関連会議の一つであるCEOサミットの参加者の前で渾身の大演説を行った。その中で彼は、「中国はすべての隣国と仲良くやっていきたい」と高らかに宣言したのである。

 もちろん国際政治の現実においては、どこの国でも「すべての隣国と仲良くする」ようなことはそもそも不可能であり、習主席の宣言はほとんど現実味のない大言壮語というしかない。しかしそれでも彼がそう宣言せざるを得ないのはやはり、今まで多くの隣国と「仲良く」してこなかったことを強く意識しているからであろう。アジア外交を立て直すためには、こうした大げさなアピールも辞さないのである。

 この宣言はおそらく、会議開催の前から習主席がずっと温めてきたものであろうが、会議の参加者と世界に向かって「すべての隣国と仲良くする」と宣言するならば、習主席は結局、安倍首相との首脳会談に応じる以外に道がないのである。それこそ近隣国の日本の首相との会談すら拒否しているなら、この発言は直ちに説得力を失ってしまうからである。

 このように、習主席は日本との首脳会談に応じざるを得ない立場に徐々に追い込まれていったが、実は今回のAPEC開催に当たり、彼にはもう一つ大きな心配事があった。中国にとっての「問題児」、安倍首相の出方である。

 APECは国際会議であるから、中国が招かなくても、安倍首相は北京にやってくることになる。そしてアジア主要国の指導者としては会議の席上それなりの発言権をもっている。今までに開催されたアジア関連の国際会議を振り返ってみると、安倍首相は常にそれらの国際会議を利用して中国の覇権主義に対する痛烈な批判を展開していたことがよく分かる。たとえば2014年5月末、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で安倍首相は、日本の総理として初めての基調演説を行い、海洋進出を強引に行っている中国を厳しく批判したことは有名である。

 そしてもし、北京のAPECの席上、安倍首相が習主席とアジア太平洋地域の各国首脳の前でそれと同じような中国批判を展開してしまえば、習主席にとってはまさに悪夢の到来であろう。自らの存在感をアピールするこの華やかな大舞台が台無しになってしまうだけでなく、会議を利用してアジア外交を立て直そうとする計画がご破算になりかねないからである。


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