高齢者の労働能力は年齢では決まらない。「年齢ありき」の発想からの脱却が必要だ。アクティブシニアを増やすためにはどうすべきかについて、産業保健人間工学の第一人者である筆者が説く。
編集部(以下、─):多くの企業で「55歳役職定年、60歳定年。65歳に定年が上がったから60~65歳の間は定年再雇用」といった人事運用がなされています。年金財政を考えれば、支給開始は70歳、75歳といずれ上がっていくでしょう。企業は年功序列で上がりきった定年直前の賃金を維持するのは難しいから、単なる定年延長はのめず、再雇用で賃金水準を切り下げるしかない。労働者は給料下がって年下上司に仕えるのは面白くない。こんな状況なのに、再雇用の期間がどんどん伸びていくのは無理があると思うのですが。
神代雅晴氏(以下、神代):再雇用制度は、クビを切れない日本の労働慣行のなかで賃金をカットするためにつくった、いわば小手先の制度です。働く人のモチベーションを下げる方向に進みますから、続けていくことは難しいでしょう。そもそも、暦年齢だけで判断する定年制そのものに限界が来ているのです。定年制は、高度経済成長時代に安価な労働力をできるだけ長く確保するために生まれました。昭和30年代にできた仕組みのツケがたまった成れの果てが再雇用制度です。
─定年制そのものを廃止すべきということでしょうか。
神代:はい。高齢者の労働能力は、暦年齢で決まらないので定年制に合理性がありません。とくに健康状態と運動能力に大きな個人差があります。私たちは、視力や立位体前屈、血圧などの項目から算定する「機能年齢」という尺度をつくり、暦年齢から機能年齢への切り替えを提唱しています。
また、日本企業は職務能力の評価もきちんと行ってきませんでした。年齢とポストや待遇が強く結びついてきたため、評価システムを構築する必要がなかったとも言えるでしょう。
まず、各仕事に必要な技能知識、経験を、ヒアリングなどから徹底的に拾い上げることが必要です。私たちの研究では、レジスターの仕事なら800ほどの項目がありました。実際の評価項目としては使いやすさのために100くらいまで絞り込みます。この方式はあらゆる仕事について応用でき、職務能力を診断することができます。
機能年齢と職務能力評価、そしてモチベーション。この3つの軸から総合的な労働適応能力、ワークアビリティを診断していくことが、超高齢社会を迎える日本企業に求められています。