Diplomat誌のティエッツィが、同誌11月6日付ウェブサイトで、米国のアジア回帰に関するケリー国務長官の最近の発言を取り上げ、アジア回帰は、クリントン前長官が提唱した当時とは性格が変わり軍事的側面が大きく後退している、と述べています。
すなわち、ケリー国務長官の米中関係に関する11月5日の演説は、米国のアジア回帰が、2011年に発表された当初とは性格が異なってきていることを示している。
ケリーは、「リバランスを定義づける4つの柱」として、(1)持続的な経済成長、(2)クリーンエネルギー革命を通じた気候変動対策、(3)ルールに基づいた安定した地域に貢献する、規範と機構の強化による緊張緩和、(4)アジア太平洋の人々が、尊厳、安全、機会を与えられた生活を送れるよう保証することを挙げた。
3年前、ヒラリー・クリントン前長官は、「アジア回帰」のオリジナル版を発表した。Foreign Policy誌の記事で、クリントンは米国の新しいアジア戦略の6つの行動基本を挙げた。二国間同盟の強化、中国を含む新興勢力との実務的協力の深化、地域の多国間機構への関与、広範な軍事的プレゼンスの強化、民主主義と人権の促進である。
ケリーの再定義は、クリントンのものと、いくつかの重要な点で異なっている。特に、リバランスの経済的側面(特にTPP)が前面に出されている。これは、単に政治的ジェスチャーである可能性はある。TPP交渉は行き詰まっており、オバマ政権が更に強調することで、交渉に新しい機運が加えられるかもしれない。しかし、再定義は、「アジア回帰」に対して中国から頻繁に向けられる、「同盟・軍事偏重」との批判に対応している。
ケリーの新しい定義では、クリントンが重視していたアジア回帰の軍事面は、見当たらない。ここ1、2年、オバマ政権は、アジア政策において、軍事から経済・外交問題に、徐々に焦点を移している。これは、一つには、ISISとの戦いやウクライナ危機に対応しなければならないという必要性から来るものである。
しかし、リバランスの軍事面の重要性を引き下げる決定は、意図的な選択でもあろう。リバランスにおいて、経済面に焦点を当てることは、「対中封じ込めである」との中国の不満の根拠を小さくする。気候変動対策をリバランスの課題に加えることは、米中が「アジア回帰」の枠組みの中で協力する余地を与える。それは元来の定義からは抜けていたことである。