クリントンの6つの目標のうち、3つが中国に関することである。ケリーの再定義では、4つの目標全てが、中国との共通の土俵を提供し得る。もちろん、これらの目標を追求するために米国の戦略を実行する際は、中国の国益と衝突が生じるであろう。必要性からであれ、外交的配慮からであれ、オバマ政権は、「アジア・リバランス」の論争的な側面を目立たなくさせた、と指摘しています。
出典:Shannon Tiezzi,“So Long Deployment, Hello Employment: Redefining the Rebalance to Asia”(The Diplomat, November 6,2014)
http://thediplomat.com/2014/11/so-long-deployment-hello-employment-redefining-the-rebalance-to-asia/
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ケリー国務長官は、ジョンズホプキンス大学のSAISで行った米中関係に関する演説において、米中関係の強化がリバランス戦略の鍵になる要素であることに疑いの余地は無いとして、「今日の世界において、最も重要なのは米中関係であるということだ。米中関係が21世紀の姿を決める大きな要因になる」と述べています。
クリントン国務長官の退任以降、米国のアジア回帰が変質していることがしばしば指摘されていますが、ケリーが演説で提示した4つの柱は、改めてそのことを示しています。オバマ政権が、中国を刺激しないよう、事実上の「中国封じ込め」としてクリントンが提示したアジア回帰を変容させた、という分析は、その通りでしょう。現在のオバマ政権が言う「アジア重視」は、もはや「中国重視」であると言っても過言ではないように思います。ケリーが4つの柱の一つとして挙げている気候変動対策については、早速、11月の米中首脳会談で、両国の削減目標で合意に達し、世界の耳目を集めました。
ケリーの新定義は、TPPをアジア回帰の中心に位置付けています。TPPがアジア回帰の中心というのは言い過ぎですが、重要な構成要素であることには違いありませんから、TPPが無事に締結されるに越したことはありません。この点は、共和党が両院で多数を占めた議会とオバマ政権との数少ない一致点であり、進展が期待できるかもしれません。
また、ケリーの再定義にも、「ルールに基づいた安定した地域に貢献する規範の強化」が含まれおり、中国が期待を裏切ることとなれば、オバマ政権としても対中政策の見直しを迫られることになるでしょう。中国のルールに基づかない振る舞いには、議会からの圧力もあると思います。しかし、ヘーゲル国防長官の辞任劇が象徴的に示している通り、オバマ政権の政策遂行能力自体に、例を見ないような大きな疑問符がついています。そして、そういうオバマ政権が、あと2年続きます。
もちろん、オバマ政権がアジア回帰を再々定義してクリントンのオリジナル版に戻することはないでしょう。航行の自由、人権、サイバーなど個別分野で、出来ることだけでも手を付けてくれるよう、主に実務者同士の協議を通じて働きかけていくしかありません。米国のアジア回帰の空洞化を可能な限り防ぐためにも、日米ガイドライン改定のための作業が極めて重要となります。
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