資本力がないならどう売るか
「蔵を見に行きませんか」。浅野さんは時間があれば、客を蔵見学に誘ってきた。最近では希望者が増え、予約を受けて蔵見学ツアーも組む。レンタカー代など実費はもらうが、基本は無料サービスだ。目先の商売ではない。秋田の酒のファンが増えれば、いずれ自らの商売にもプラスになる。そう信じてやってきた。
最近では見学を許す蔵元も増えているが、観光客がいきなり訪ねるのは難しい。浅野さんと一緒なら、時には蔵元の社長や杜氏と直接話をできることもある。長年の蔵元と酒屋の信頼関係があればこそ、蔵への出入りを許されているのである。秋田の蔵元の中には直接小売りをしていないところも少なくない。そうなると、蔵元から客を紹介されることもある。作り手と売り手の二人三脚が出来上がっている。
浅野さんが秋田の地酒に絞り込んだ商売を始めたのは1997年のこと。酒を扱うコンビニが増え、大型の酒ディスカウントショップが秋田にも進出してきた。能代にそうした動きが広がるのは時間の問題だ、そう感じた浅野さんは考えた。
「資本力がないならどうやって売るか。お客さんに面白がってもらえば良いのではないか」
地酒一本に絞ることを決めた浅野さんは、蔵案内などファンを増やし、B5版のダイレクトメールを定期的に送り始めた。
「100人にまで増やすのは大変だった」と浅野さん。実際、ビールなどの取り扱いを止めて売り上げは半分以下になった。地道に一歩一歩積み上げていくことで、手紙の送り先は400人にまで拡大。通信販売による注文も大きく増えた。
秋田の酒の人気が全国的に高まっていく中で、なかなか手に入らない秋田の地酒が天洋酒店なら手に入る。東京の居酒屋などが開く秋田の酒の会などにも積極的に顔を出した。フェイスブックなどのSNSも活用、今ではメールマガジンの送り先は600人に達している。全国に着々と秋田の酒のファンが増え、浅野さんのファンも増えていった。