2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年12月25日

 米中は、クリーン・エネルギーへの道に決然とコミットした。両国は、新しいエネルギー経済における優位をめぐる戦いで後れをとることの危険を認識している、と述べています。

出典:Fred Krupp,‘A Game-Changing Climate Agreement’(Wall Street Journal, November 12, 2014)
http://online.wsj.com/articles/fred-krupp-a-game-changing-climate-agreement-1415838017

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 筆者が代表を務めるEnvironmental Defense Fundは、ニューヨークとワシントンに拠点を置き、米各地の7カ所、ロンドン、北京、メキシコにも支部を持つ、環境問題に関するシンクタンクです。

 クリーン・エネルギー関連技術への投資が加速するという論説の見通しは、その通りでしょう。日本企業にも、大きなビジネスチャンスが生まれることになります。

 論説も指摘する通り、中国は既に、エネルギー効率向上、再生可能エネルギー導入推進において多くの取り組みをしています。2004年6月の『エネルギー中長期発展計画(2005~2020年)』で、既にそういう方針は明確に打ち出されています。2006年1月には、「再生可能エネルギー法」を施行し、太陽光、風力を中心に推進してきました。原発についても、2009年4月に「強力に推進する」との方針を示しています。こうした政策の主眼は、エネルギー安全保障、エネルギー効率化、大気汚染対策にあります。今回、中国が提示した数字の背景には、こうした施策が奏功して、2030年までにはCO2排出量を頭打ちにできる目途が立った、と解釈することができます。ただ、そうであっても、これまで中国は温室効果ガス排出量の削減目標の単位を「GDP原単位当たり」としてきたのを、今回、初めて総排出量について、2030年ごろまでにピークアウトさせるという、やや漠然とした表現ながら期限付きで打ち出したことが与えるインパクトの大きさも、確かに否定できません。中国の戦術的巧妙さは注目に値すると言えるでしょう。

 しかし、中国は、総排出量削減の数値目標には、依然としてコミットしていません。共和党が両院で多数を占めた米議会が「不公平である」として反対することは、想像に難くありません。6月にオバマ大統領は、米環境保護局(EPA)の規制権限を行使して石炭火力発電所を削減する方針を表明し、民主党議員からも反発を受けました。行政権限の行使により新しい削減目標の達成を強行しようとすれば、議会との関係をこじれさせるでしょう。すでに、マコーネル共和党院内総務は、今回の規制は米国に大損害をもたらす、と言っています。共和党は本来地球温暖化問題に消極的である上に、今回の選挙で、ケンタッキー、ウェストバージニア等の石炭産出州で共和党が勝利したことも、反発の背景にあるようです。今回のオバマの表明に対する議会共和党の反発は今後高まることが予想され、地球温暖化問題での米国の指導力に影を落とすことになるでしょう。

 日本としても、本来、中国が今回表明したコミットメントを守るよう働きかけていくべきですが、原発が完全に停止している影響で、温室効果ガス削減目標としては、原発を考慮に入れない暫定値として、2020年までに2005年比3.8%という数値しか示せず、今年12月のCOP20でも防戦に追われているような状況であり、交渉の梃子を欠いています。

  
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