(SHIGEO NAKAMURA)
昨年の秋、チタン国際会議でシカゴに向かう機内で映画『リンカーン』を見た。奴隷解放に命を懸けた第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンのその執念を政治ドラマに作り込んだ、スティーブン・スピルバーグ監督の力作だが、途中で寝てしまい、結局3回も見る羽目になった。奴隷制廃止を下院に通すまでのリンカーン大統領の苦悩と決断のストーリーは理解できるが、何か釈然としないのである。
レアメタルの仕事では資源国家が中心になるので、アメリカよりも発展途上国を訪問することが圧倒的に多い。ところが、最近の動向を見ていると資源の世界にも大きな変化が起こっている。過去10年間続いた資源ブームも今は鳴りを潜め、逆に資源安ショックが世界経済を揺さぶっている。
資源安ショックの原因は、アメリカのシェールオイル・ガスの開発によるエネルギー革命である。今やアメリカは資源大国の道を歩み出し、中東に頼る必要がなくなりつつある。チタン会議には、千数百人のチタン関係者が世界中から集まった。
基調講演では各国の代表による比較的楽観的な市場環境の発表があり、アメリカ経済の好景気を煽るような雰囲気で初日はスタートした。その後、ボーイングやエアバスなどの航空機産業をはじめ、化学産業用途の需要家からチタンの加工メーカー、原料メーカーによる2015年度に向けた契約交渉がはじまった。
ところが、具体的な交渉に入ると各国の需要家の見方は、足元の在庫整理が翌年度までずれ込むとの予想が多く、2015年度はまだ不透明であるとの意見が大勢を占めた。エネルギーコストが下がれば、ほぼ全てのコモディティーに先安観が出てくるのは当然だ。
エネルギー需給の勢力図が変われば鉄鉱石や非鉄、レアメタルに至るまで影響を受けるのは自明の理である。2013年からは完全に世界の資源の潮目が変わり、明らかに資源安に向かっているのをしばらく止めることはできないだろう。