日本がバブル景気に浮かれていた1990年前後に多くの日本企業が海外投資を行い、日本が世界を買っていると言われた。ソニーのコロンビア映画買収ではアメリカの魂を買ったと報道された。三菱地所はニューヨークの名所ロックフェラーセンターを購入した。アイススケートリンク前のクリスマスツリー点灯が毎年ニュースで流れるので、テレビでビル群を見た方も多いだろう。第一不動産は米国を代表する宝飾店ティファニーの本店ビルを買収した。しかし、海外投資の多くは資産を高値掴みしたものであり、三菱地所はロックフェラーセンターの14のビルのうち12を失い、第一不動産はティファニービルの売却を余儀なくされ、その後倒産した。
いま、中国が世界を買っているとの声があるが、中国企業が日本のバブル時の日本企業の行動から学んだことの一つは、海外資産を正当な価格で買収すること、あるいは買い叩くことなのかもしれない。ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど不況に喘ぐ国の資産を安く買っているのは中国企業だが、中国が購入した資産の中に発電設備、パイプライン・送電網まで含まれるとなると、他国の話ながら、エネルギーインフラを社会制度が異なる国が保有することに不安を感じないのかと心配になる。
中国は世界を買っているのか
中国は、日本をはじめとする世界の多くの国から工場建設などの投資を受け入れてきた。ここ数年の投資の受け入れ額は、年間約1000億ドル(12兆円)であり、2012年段階での投資額の残高は1兆3400億ドル(約160兆円)に達している。中国への投資残高の半分近くを占めている香港を除けば、多いのは日本870億ドル(10兆4000億円)、米国700億ドル、(8兆4000億円)シンガポール590億ドル(7兆800億円)、韓国530億ドル(6兆4000億円)だ。
その中国への投資額は頭打ち傾向にあるが、急激に増えているのは中国企業による海外事業への投資、あるいは企業買収だ。図‐1は、主要国の対外投資額の推移を示しているが、中国の投資額は着実に増えており、韓国は無論のこと、海外投資が低迷しているドイツも抜き、世界3位となり日本に迫っている。中国政府商務部によると、13年の金融資産を除く直接投資額は900億ドル(10兆8000億円)、投資先は156カ国の5090の事業体に及んでいる
図‐2は、中国が海外に投資した対外投資額と中国への投資である対内投資額の13年までの推移を示しているが、14年の推測値では、ついに中国の対外投資額が対内投資額を上回ったとされている。投資を受け入れ世界の工場だった中国が投資を行う立場になったのだ。中国は世界を買っていると言われる理由だが、日米との比較では中国の投資額は相対的にまだ小さく、世界を買っているようには思えない。実は、金額ではなく、中国企業の行動から世界を買っていると言われるのだが、その行動をみる前に、何故中国企業が海外に進出するのか、その理由を考えてみよう。