2024年12月22日(日)

「ひととき」特別企画

2015年3月20日

淡いピンクの小さな花を咲かせたかと思えば、すぐにはらはらと散り去る。桜はその夢と現(うつつ)のあわいのような幻想的な姿で古(いにしえ)より多くの人々を魅了してきました。自然豊かな美濃では日本三大桜の一つ、淡墨桜(うすずみざくら)が圧倒的な存在感で咲き誇るそうです。樹齢1500年ともいわれるこの老桜をはじめ大切に守り育てられてきた名木が残る美濃に、いよいよ春がやってきます。

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柔らかなタッチで表紙いっぱいに桜の花が描かれた一冊の画集。その美しさ、切なさに惹かれて思わず手にとると、そこにはさまざまな表情を見せる桜がずらりと並んでいました。桜花は画伯にとってどのような存在なのでしょうか。

はじめは日本画家を目指さなかった

 光が隈なく行きわたった明るいアトリエである。およそ80畳、バスケットボールの試合でもできそうな広がりは、さしずめ絵画の海原だ。そこかしこに描きかけの作品が島を作り、さらにその周辺にいくつもの絵皿の離島が集まっている。そうした色彩の海のなかを画伯は島から島へと移動しながら絵筆を動かしていく。大きさも画題も異なる数かずの作品に並行して取り組むのだ。将棋に「多面指し」という、一人で複数の人を相手にし一手ずつ順番に指して巡る対局があるが、あれを思わせる。盤面を移すたびまったく違う局面の景色となり、そのつどまったく違う集中力をリセットしていくのだろう。光射すアトリエの、静かな格闘だ。

アトリエでは中島千波さんの手によりさまざまなサイズの絵が同時進行で描かれ、命が吹き込まれていく。大きいものは高さが2メートルを超える(写真・齋藤亮一)

 画伯の名は中島千波(ちなみ)さん。現代日本画界の第一人者である。これまでにさまざまなモチーフの作品を描いてきたが、現在は花鳥画の世界が広がっている。『さくら図鑑』(求龍堂)という画集もあるように桜が多く描かれ、そのほとんどが樹齢を重ねた老桜だ。

 「桜の古木を描きはじめるきっかけとなったのは根尾谷(ねおだに)の淡墨桜(岐阜県本巣市)でした」


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