2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2015年4月1日

 SXSWインタラクティブは800以上のセッションを抱える大規模なプログラムであるが、いずれもその名の通り交流を大切にしている。一方的なプレゼンよりも複数人によるパネルディスカッションが多く企画され、ワークショップも数多い。ベンチャーによるピッチでも、メンターやベンチャーキャピタルとの交流の機会となることが重視されている。加えて、非公式な交流も推奨されていて、たまたま隣に座ったもの同士で互いのビジネスを紹介しあったり、「私にピッチして(Pitch Me)」と書かれた、大企業のロゴ入りTシャツを着たスタッフが街を歩き回っていたり(関係すると思ったベンチャーが話しかけるのだ!)、そこかしこにインタラクションの機会が転がっている。こうした場で自らのサービスをローンチすることがベンチャーにとってはよい宣伝となり、その後の成長へとつながるきっかけを探し出すために、世界中から人が集まるのである。実際、ツイッターは2007年のSXSWでサービスが注目され、その後の急拡大を実現している。

地方創生の理想的な好循環

 今年のSXSWでは、日本も存在感を発揮していた。技術系のベンチャー企業などがトレードショーにいくつかブースを出しており、多くの関心を集めていた。特に東京大学にゆかりのあるベンチャーが集まったTodai to TEXAS(http://todaitotexas.com/)のブースは、いずれもレベルの高い出展で注目されていた。ウェアラブルおもちゃのMoff、コミュニケーションロボットのBocco、小型ロボットのPLEN2、カスタマイズできるキーボードのTrickey、デザインに優れた義手のexiii、小型のドローンであるPhenoxなどなど、いずれも実際に動く製品やプロトタイプを展示していたので、ノリのいい来場者が楽しそうに体験している光景が見られ、海外のメディアによる取材も多数あったと聞いている。こうした交流がまさにSXSWの醍醐味であり、プロジェクトとしては大成功だったと言えるだろう(余談ながら、会期の中ほどに行われたPerfumeのパフォーマンスも世界的に高い評価を受けていたことも申し添えておく。筆者は大変残念なことにスケジュールの都合で見逃したのだが)。

 SXSWに限らず、オースティンはベンチャー企業にとって魅力的な街となっている。米国でベンチャーの聖地と言えばやはりシリコンバレーだが、オースティンも負けず劣らずのエコシステムを持っている。まずは半導体産業の集積だ。サムスンが米国最大の研究所を持ち、インテルやデルも大きな拠点を有する。IBMも50年近く前から拠点を持ち、そこからのスピンアウトが今日の礎ともなっている。シリコンバレーに対抗して、シリコンヒルズと呼ぶ向きもあるらしい。ベンチャーに関連するプレーヤーもそろっている。ベンチャーキャピタルはもちろん、アクセラレーターとしてはCapital FactoryやTechstars、Tech Ranch Austinなどが拠点を構え、人材の供給源となる有名大学としてはテキサス大学オースティン校がある。同校は2016年に新たにメディカルスクールを創立する。今後はバイオの分野においてもオースティンの存在感が高まるだろう。

 温暖な気候や良好な治安、テクス・メクス料理に代表される食文化もこの地の魅力である。生活費の高騰が続くシリコンバレーを嫌って、オースティンに流入する人口も多いと聞いた。実際、街の人口は5年前に65万人強だったものが、今年の頭には90万人近くまで急速に増えている。市内の発展は目覚ましく、建設ラッシュが進む。SXSWの期間には完全に部屋が不足しているホテルは、来年までに3棟が新設されるのだそうだ。

 世界的に有名なイベントを核に注目を集め、ベンチャーを含む企業の集積が人口増を呼び、街を活性化する。そんな地方創生の理想的な好循環をテキサスの地に見た。これを単純に真似すればいいというものではないし、また容易でもない。しかし、成長戦略の一部としてベンチャーによるイノベーションが注目されるなかで、猫も杓子もシリコンバレーというのではなく、こういった場所にも目を向けることによって得られるものは大きいように思った。筆者もこのエッセンスを活用しつつ、微力ながら我が国のイノベーション創出に寄与したいと考えている。

  
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