2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2015年5月1日

 著者が設立した一般社団法人遺品整理士認定協会には「魂の四原則」というものがあると紹介されている。

一、ご遺族の方に真の思いやりと心からの親切を第一とする
一、身だしなみや清潔感を第一とする
一、故人に敬意を持って、作業する
一、故人の遺品を自身の家族のもののように扱い、ご遺族や地域社会への奉仕の心を忘れない

 こうした気配りを大切にしている従業員がいる業者に依頼したいというのが多くの人の願いだろう。本章では第二章で遺品整理士の仕事の様子を紹介しているが、実に大変な仕事であることがわかる。身だしなみのチェック、女性のお客に配慮して女性社員を帯同すること、お悔やみの言葉、詳細な見積もり、費用負担の確認など、あらゆることに気を配っている様子がわかる。

 また遺族だけでは手がつけられなかった現場で、行方がわからなくなっていた土地の権利書を探し出したほか、チラシの裏にあった故人の走り書きをみつけたり、残されたアルバムの写真を見て、故人と家族が大切にしていた思い出の品を見つけ出したりなどのエピソードからは、遺族の心をくみ取りながら、様々に気を配っている様子がわかる。故人の生前のイメージを損なわないように遺族に見せない方が良いと判断したものは、そっと別の場所に移すなどの細やかな配慮などは、まさに著者の記すように「コーディネーター」であり、整理しながら遺族の悲しみをやわらげ、乗り越える道筋を示す「セラピスト」のような役割でもある。そうした意味でも良心的な業者を選ぶことは大事であり、本書が第四章に11のチェック項目を設けているのは参考になる。

元気なうちに整理しておくことの大切さ

 本書でもう一つ気付かされたことは、やはり自分が元気なうちに持っている物を整理しておくことの大切さである。「今から備える遺品整理」という第三章を読むと、残された家族などに負担をかけないようにすることも大事であることがわかる。

 本書の帯に作家の石井光太氏がコメントを書いている。

〈「遺品整理がビジネスとなる時代は決して褒められるべきものではない。しかし、今という世の中で必要とされるのであれば、最善の枠組みを提示すべきである」〉

 本書は、人生の終わりを迎えつつある人やそういう家族を持つ人たちだけに参考になるのではなく、現代のような難しい時代を一人一人がどう生きるのかを考えさせられる本ではないかと思う。そういう意味で社会のあらゆる年代の人や、行政関係の方々も含めて広く読んでもらいたいと思う一冊である。

  
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