2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月8日

 指針はこれだけに限らない。世界の公共財、現代が必要とする速さと明確さで行動すること、政府と民間の協力等の問題がある。将来の歴史家は、過去1カ月の出来事を、有益な警鐘と見るであろう、と述べています。

出典:Lawrence Summers‘A global wake-up call for the U.S.?’(Washington Post, April 5, 2015) ‘Time US leadership woke up to new economic era’
(Financial Times, April 5, 2015)
http://www.washingtonpost.com/opinions/a-global-wake-up-call-for-the-us/2015/04/05/6f847ca4-da34-11e4-b3f2-607bd612aeac_story.html
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/a0a01306-d887-11e4-ba53-00144feab7de.html#axzz3WUY16vUz

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 サマーズは、米国がAIIBの設立でいわば「負けた」のは、米国に対する警鐘である、と言っています。

 警鐘の中身は、まず米国の対外政策が超党派で進められなければならない、ということです。そして、新しい世界経済の構造を作るための政策として、中産階級を重視すること、投資を優先させること、を挙げています。

 米国における民主、共和両党の対立が、米国の対外政策の大きな足かせになっていることは、サマーズの指摘を待つまでもありません。ただ、サマーズはどうすれば超党派の基礎が築けるかについては言及していません。この対立の根は深く、両党は今回のAIIBでの「敗北」を警鐘としてとらえそうもありません。この対立が続く限り、米国のリーダーシップは、十分に発揮されえません。

 米国が新しい世界経済の構造を作るに際して留意すべき政策のうち、中産階級の重視はその通りでしょう。米国をはじめとして貧富の格差が拡大する中で、、中産階級の低迷が指摘されています。ただ、サマーズは、具体策には触れていません。

 投資の優先については、その前提として、これからの世界では、資本が十分にあり、デフレの圧力が強く、需要不足が長続きしそうである、と述べています。その中で投資を優先させるということは、ケインズ的景気刺激策を想起させます。ただし、ケインズの景気刺激策は、景気循環的なものであり、構造的デフレに対する効果は別のものでしょう。

 現在の制度では、債務国が調整の責任を負っていて、債権国にも圧力がかかるような、釣り合いのとれた制度が必要である、と言っているのは興味深いです。現在のギリシャ債務問題に当てはめると、ギリシャに緊縮を求めるのはほどほどにし、一方でドイツが景気刺激策を取るべきである、ということになります。そうして初めて釣り合いのとれた制度になると言います。ただこの政策では、債務国のモラルハザードをどう扱うか、ギリシャにどの程度の規律を求めるか、が問題となります。

  
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