エコノミスト誌4月11-17日号が、「一帯一路」はアジアの政治・経済体制も変えたいと思っている習近平のビジョンを呈したマニフェストであり、これを空疎なスローガンとか、アジアで主導権を握りたい中国の単なる「策謀」と見るのは間違いである、と警告しています。
すなわち、新シルクロード構想は、当初、浮ついたものに思われたが、中国がアジアインフラ投資銀行に500億ドル、シルクロード基金に400億ドルの出資を約束し、実現への弾みがついた。中国の企業は道路・鉄道・港湾・パイプライン等のインフラ建設で潤い、輸出業者は輸送網の改善の恩恵に浴し、周辺諸国の開発は新たな市場の創設につながるだろう。中国は、同構想は人類全体に資する、ウィンウィンの構想だと主張しているが、勿論、中国はカネと投資によって友人を獲得することを期待するだろう。
関係国の反応は様々だ。石油価格の低下と、ロシアへの出稼ぎ労働者からの送金の目減りで打撃を受けている中央アジアは、中国の関与拡大を歓迎、旧ソ連邦諸国への中国の影響力浸透を警戒するロシアも、今や中国に依存しており、良い顔をするしかない。
一方、南シナ海での人口島建設などといった中国の傲慢な振舞いが反感をかっている東南アジアでは、広く疑念が持たれている。マレーシアの国防大臣は、海洋シルクロードは中国一国ではなく、地域的共同構想であるべきだと述べた。
しかし、当初懐疑的だったインドネシアのウィドド大統領は、自国の大規模開発計画に中国の投資を期待し、支持に転じた。3月に訪中し、「海洋パートナーシップ」を約束したが、訪中前に、東南アジア海域での中国の領有権の主張は認められないと言明し、クギを刺すことは忘れなかった。
インドのモディ首相は、3月に、スリランカ、モーリシャス、セイシェルを訪問し、協力の強化を約束、さらに、インド自身の海洋大国への意欲を表明した。1月にはオバマとともに共同「戦略的ビジョン」も発表している。周辺諸国との関係強化と対米接近が、中国の野心に対するインドの暗黙の対応と言える。
モディもウィドドと同様、中国のインフラ投資は歓迎なので、海洋シルクロードを非難はしないだろうが、中国主導の機関がアジアで大きな役割を果たし、中国海軍が遠洋に進出し、中国が地域の要になる、という習の描くアジアの将来像には、おそらく二人とも懸念を抱いているだろう。しかし、習は、中国が「本来の歴史的権利」を取り返し、韓国や日本が自らの意思で米国から離れて中国の勢力圏に入って来る、という地域的覇権の夢に導かれているようだ。「一帯一路」は単なる策謀ではなく、実現性さえあるが、他のアジア諸国にとっては勇気づけられる点は少ない、と述べています。