2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年6月18日

 オバマがTPPについて苦労している時、インドのモディ首相は訪中し、220億ドルの取引に署名した。ただモディは中国の台頭は懸念しており、米国がアジアでの軍事プレゼンスを強化するのを奨励している。

 米国はまだアジア・太平洋で支配的な軍事強国であるが、中国は卓越した経済強国である。TPPはそれを変えるには効果が小さすぎ、かつ遅すぎる、と述べています。

出典:Gideon Rachman‘Obama’s Pacific trade deal will not tame China’(Financial Times, May 18, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/d0d6bc1a-fafa-11e4-9aed-00144feab7de.html#axzz3aTRdXRRr

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 政策の議論に際して、その政策が達成しようとする目的が達成可能か否かは、重要な論点です。ある政策に反対するために、その政策が達成しようとする目的を恣意的に設定し、その目標達成にならないという議論をすることがよくあります。この論説はそういう議論の典型です。中国は、現在アジアで卓越した経済強国ですが、TPPはそれを変えられないと言います。これはTPPなど無意味という印象を与える論議です。

 TPPは、アジアでの貿易秩序を自由貿易をベースにしたものにするという意味で、大きな意義があるでしょう。中国も国家資本主義的なやり方ではなく、TPPに参加できるほどの本当の市場経済化、貿易自由化を進めることが望ましいです。それにTPPは参加各国の経済成長にもつながります。特に日本にとっては、成長戦略を推し進めていく起爆剤にもなり得ます。この論説が言うように、TPPで中国の台頭を止めることはできないと思いますが、TPPはそれでも、対中戦略、参加国経済の強化の面で大きな意義があります。その意義を多面的に考えて、過大期待も過小評価もしないことが肝要でしょう。

 中国の台頭に関しては軍事面での台頭を注意深く見ていく必要があります。経済の問題と安全保障の問題は違う性格を持ちます。プラスサム・ゲームとゼロサム・ゲームほどの違いがあります。最新の戦闘機の軍事バランスの維持は、TPPの成否よりアジアの平和にとっては重要でしょう。

  
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