同じ頃、高校時代の同級生の兄で、ブラジリアン柔術CARPE DIEM(カルペディエム)の伊藤健一から「ここに来いよ」と声を掛けられた。
堀江が学生時代にファッション雑誌に紹介された時に「将来はプロレスラーになりたい」と書いてあったのを憶えていたからだ。
堀江は迷った。アイススレッジホッケーはリンクの上でなければ練習ができない。そのうえ練習は週末に長野県で行われるため、お金と時間が掛かる。チーム数も競技人口も少ない。
それなら平日にも練習ができるブラジリアン柔術の方がいいんじゃないか。寝技が使えることも自分には合っているし、何よりも健常者と対等に戦えることが嬉しかった。
目標は片足のない全米アマレスチャンピオン
「アメリカにアンソニー・ロブレスという片足のないアマレスの選手がいます。それでも健常者と戦ってアマレス全米大学選手権のチャンピオンになりました。この国には凄い人がいる。障害者も健常者も関係なく戦って、全米何万という選手のトップになって、カッコイイと思ったのです。今の僕はブラジリアン柔術でそうなりたいと思っています。白帯が何言ってるんだって感じですが、僕の目標はアンソニー・ロブレスです」
このインタビューは、片足のアスリートが『ブラジリアン柔術関東オープン』マスター2白帯無差別級の部で優勝したという記事を読んだことがきっかけだ。
白帯の大会ではあっても、ブラジリアン柔術といえば、関節を取り合う激しい格闘技の代名詞のようなイメージを持っている。その競技で「障害の枠に収まるつもりはない。」と言う片足のアスリートが健常者と戦うのだから、それだけでも称賛に値する。
しかし、その見方も堀江の言う「障害の枠に収まるつもりはない。」という言葉に繋がるのだろう。言い換えれば「障害者扱いしないでほしい」という反発心なのではないか。そんな想像を巡らせていた。
しかし、インタビューを通して伝わってきたものは、決して反発心などではなく、もっとおおらかに障害者、健常者の区別なく、枠にはまることなく、人としてアスリート堀江航としてスポーツを楽しみ、チャレンジを楽しみ、人生を楽しみたいという思いなのだと理解した。