2022年10月1日(土)

小川さやかのマチンガ紀行

2015年7月27日

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出稼ぎ者が故郷へ送金

 エム・ペサの送金システムは、出稼ぎ民が大半を占める都市部の若者たちにとって、故郷の村に残してきた両親や妻子に仕送りをする際の画期的なサービスとなった。どこが画期的なのかを説明するために、送金サービスが広まる前の状況について少し述べておきたい。

 遠く離れた場所から出稼ぎにきた者のなかには、故郷に帰るバス賃や、親戚一同に配る土産を買うお金がないなどの理由で、もう何年も故郷に帰っていない人びとも多い。ただ、本人が故郷に帰っていなくても、故郷へとお金は届けられている。

 都市で生活基盤を築いた者のところには、故郷の人びとから預かったという手紙や言づけとともに後続の出稼ぎ者がぞくぞくと押し寄せてくる。手紙や言づけには、

 「妹の学費が足りない。すぐに金を送れ」

 「父さん、家にはもうお金がありません」

 などの送金の催促が含まれていた。ケータイが普及すると、この催促の電話が直接、そして頻繁にかかってくるようになった。

 かつて送金は、時間のかかることだった。銀行口座を持たなくても、都市と都市の間の送金ならば、ウエスタン・ユニオンの窓口を通じて行うことができたが、銀行すらない村にウエスタン・ユニオンの窓口など当然ない。

 村からの知らせを受け取った都市の若者たちはまず、ある程度のまとまった金をかき集め、それから近々村に帰る同郷の知り合いを探しだし、彼らに「俺の母ちゃんにこれを渡してくれ」などと手紙とともに手渡す方法を採用していた。

 ケータイが普及した後は、あらかじめ故郷の家族にバス停で待つように連絡し、故郷へと向かう長距離バスの運転手やコンダクターに手紙とお金を届けてもらう方法が広く採用されるようになった。いくつかの長距離バス会社は、手数料をとって故郷への送金を担う窓口を設けていた。ただしこの方法では確かに相手に届けられるか否かにはリスクが伴ったし、何より病気や事故などの緊急を要する事態に間に合わない。

 エム・ペサの送金サービスは、この時間の問題を解決した。銀行送金とは異なり、エム・ペサでは、1000シリング以下(2015年現在の換金レートで、1ドル=2002シリング)という非常に少額でも送金できるので、まとまった金銭をかき集める時間も不要だ。家族からの知らせを電話で受けた者は、その場で近くの代理店に駆け込んで、とりいそぎ手持ちの額を電子マネーに変えて電話の相手に送り、送られた相手はすぐに代理店に駆け込み、現金化する。しばらくすると送った相手から電話がかかってくる。「ありがとう。病院に行ってきたよ」と。

⇒次回に続く。

  
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