経営学を学んだ人は無論のこと、多くの企業人もマイケル E.ポーターの名前を聞いたことがあるだろう。ハーバード大学の教授に最も若くして就任したことでも知られる経営戦略論の大家だ。産業の競争力に影響を与える5つの要因をあげたポーターのファイブフォースは経営戦略論の基本の一つだ。企業の競争戦略として、コストのリーダーシップ、差別化、集中化をあげたことでも知られる。
環境ビジネスに係る人たちの間では、1991年に初めて持ち出され、その後95年の論文で更に補強されたポーター仮説が有名だ。これは、適切な環境規制により生産性が向上し、競争力が強化されるとの仮説だ。ポーターの経営戦略論、仮説は多くの議論を呼び、必ずしも、全ての業界、状況に当てはまらないとの反論も多い。
今年6月に、負け犬、スターなどの4象限のマトリックスによるプロダクトポートフォリオ理論を提唱したことで知られるボストン・コンサルティング・グループと共同で、ポーターは、「米国の非在来型エネルギーがもたらす機会」との論文を発表した。
タイトルが示す通り、この論文は、シェールガス、オイルの生産、いわゆるシェール革命により、米国経済の競争力の強化は無論のこと、経済成長、雇用の面でも多大な寄与があり、結果、米国の時代、経済覇権が当分の間続くことを示したものだ。この米国の経済覇権のテーマも大変興味深い話であり、本連載でも取り上げたいと思っているが、今回はオバマ大統領が8月3日に発表した気候変動、温暖化対策とシェール革命との関係について触れたい。
シェール革命の効果は、経済面だけではない。気候変動、温暖化問題への取り組みにも大きく寄与することが、ポーターの論文のなかで指摘されている。オバマ大統領が、温暖化対策のために提唱した、二酸化炭素の排出量を抑制した、きれいな発電所(クリーンパワープラント-CPP)が実現される鍵もシェール革命が握っている。
オバマ大統領のレガシーへの拘り
来年秋に大統領選を控え残す任期が1年半を切ったオバマ大統領の関心は、如何に歴史に名、米国で言われるレガシー(遺産)を残すかにある。レガシーのなかで、大統領が最も熱心に取り組んでいるのが、温暖化問題と米国のマスコミでは見られている。
温暖化の問題が注目されはじめたのは、80年代からだった。88年には温暖化の科学的な側面を中心に研究を行う機関として気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が国連の場で設立され、92年には温暖化を引き起こす二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑制するため気候変動枠組み条約(UNFCCC)が締結された。
UNFCCCに基づき具体的に温室効果ガスの排出を抑制するために、97年に京都議定書が合意され、先進国と旧ソ連、東欧諸国の市場経済移行国が08年から12年の温室効果ガスの排出量に目標を持つことになった。日本は90年比6%減の目標を持ったが、米国は京都議定書を批准しなかった。また、中国などの新興国は義務を負わなかった。
京都議定書に続く議定書は合意されなかったが、20年からの各国の取り組みに関する合意を、今年末にパリで開催されるUNFCCC第21回締約国会議(COP21)において目指すことになっている。京都議定書と異なり、新興国、米国も20年以降の温室効果ガスの排出に関し目標を設定することになっている。
既に、日本、米国、欧州連合をはじめ多くの国がUNFCCC事務局に目標値を提出しているが、オバマは、温暖化問題への積極的な取り組み姿勢を示すことにより、COP21の議論を主導する意向を持っていると報道されている。