犯人については、いずれのメディアも3つの可能性を挙げている。まず一つは、海外逃亡中のタクシン元首相を支持する赤シャツ隊(反独裁民主戦線)によるもの。
クーデター直後はおとなしかった赤シャツ隊だったが、ここ数カ月は軍事政権を批判し、早期の民政移管を訴えていた。ただし、事件直後、赤シャツ隊のチャトゥポン代表は犯人を非難するコメントを自身のフェイスブックに掲載し、タクシン元首相自身もツイッターで犯人を糾弾している。
犯行を否定するタクシン派
イスラム過激派も疑われる
さらに嫌疑を払拭すべく、赤シャツ隊の幹部は有力情報の提供者に300万バーツの懸賞金を出すと発表。赤シャツ隊がわざわざタイ人までもをターゲットとする無差別テロでわざわざ支持率を落とすメリットはない、といった見方もあり、現在では可能性は薄いとされている。
となると、やはり外国人による犯罪の線が残る。一つはウイグル族をサポートするイスラム過激派組織によるもの。7月、タイ政府は、タイに入国しようとしたウイグル族約100人を拒否し、中国へ強制送還した。アメリカほか世界各国がタイの対応を批判し、トルコのタイ領事館がデモ隊に囲まれるなど話題となったのは記憶に新しい。その際に世界中のイスラム系過激派組織から怒りを買ったと言われている。
もう一つは深南部のマレー系タイ人によるもの。厳密には、外国人ではないが、マレー系タイ人というのは外見的にもマレーシア人に近く、宗教はイスラム教を崇拝し、タイの中でも“外国”扱いされている現状がある。そして、タイ深南部の代名詞ともなっているのが「テロ」。
長きに渡り、一部のマレー系タイ人はタイからの独立を主張し、テロを繰り返してきた。学校や警察署、コンビニなどがターゲットとなり、多数の死傷者が出ているのは、日本ではあまり取り上げられていないものの、タイでは日常的に報じられている。ちなみに2014年の深南部でのテロ事件は、793件起き、死者は330人。793件という数字からも、いかにタイでテロが起きていることがわかるはず。
とはいえ、深南部のマレー系タイ人がバンコクまで来て、「反政府テロを実行」というのは、あまり現実的ではない、という見方が強い。そもそも今回使われた爆弾は、南部で使われるものとは違っており、さらにわざわざ現政権による取り締まりが厳しくなる口実を与える必要はない、とされている。
諸々を考慮すれば、ウイグル族を強制送還した対応に反発するイスラム過激派組織説が強くなるが、これもまたなんら証拠はない。一部報道では、犯人はスペイン人という説も出ているが、未だ身柄は拘束されず、23日の会見でタイ国家警察のソムヨット長官は「すでに犯人は国外に逃亡したかもしれない」と発言。「最新機材を持っていない(ため犯人を逃した)」ともはや言い訳ともとれる弱気なコメントも残している。
一向に進展しない今回の爆発事件。不景気が続き、観光業への逆風になりかねない今回の一件は、タイにとってはマイナスでしかなく、犯人逮捕が長引けば観光業へのダメージも否めない。また、タイ在住者にとっては、人が集まる場所への足も遠のき、なんとか不安感を払拭してもらいたいというのが素直な心情である。一刻も早い解決を望みたい。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。