2024年12月19日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2015年9月2日

 「Do They Know It's Christmas?」 と比べて「ウィ・アー・ザ・ワールド」は圧倒的に参加している人数(実際に歌っている姿が収録されている人数)が多い。しかも超大物の歌手ばかりである。まさにイギリスとアメリカの違いと言うべきか。スケールが全くといっていいほど違うのである。

 本書でも触れられているが、これだけの大物たち(ショービジネス界で成功した億万長者たち)を同じ時間にそろえて、ほぼ平等に歌わせるというのは至難の業であっただろう。それでもソロで歌える人、歌えない人が出て、映像での注目度が違ってくるのが現実だ。注目されて当たり前のショービジネス界で「エゴを排して」といくら言っても、「きれいごと」ではすまない世界である。普通なら一人でさえ扱いが難しいのに、40人を超える大物たちをまとめるのはまさに当時「世界最高のプロデューサー」と言われたクインシー・ジョーンズでなければ不可能だっただろう。

アメリカの時代を象徴するかのような雰囲気

 曲も「Do They Know It's Christmas?」 は欧州的というかスマートにまとまっている一方、「ウィ・アー・ザ・ワールド」は壮大でいかにもアメリカ的な感じがする。同じチャリティ・イベントでも、これほどまでに異なっている。試みとしてはバンド・エイドが先行したが、それをアメリカ的に強大化させたのが「ウィ・アー・ザ・ワールド」である。まさに強いアメリカの時代を象徴するかのような雰囲気を帯びている。

 これほどまでに注目されるとチャリティ・イベントに出る、出ない、あるいは出たら出たで、そこでどんな役割を演じるかは、生き馬の目を抜くようなショービジネス界ではアーティストに大きく影響するのだろう。チャリティ・イベントの意義は認めつつも、多くの歌手やバンド、俳優などはそれぞれ自らのイメージ戦略をもっている。参加したメンバーは、そうしたものと、どう折り合いをつけたのか、つけなかったのか、様々な見方について本書は示唆している。

 5章とあとがきは圧巻である。この本はこの部分を読みつつ、動画を見ると、理解が格段に深まるといえる。当初この曲が「ライク・イエスタデイ」と呼ばれていた意味。ヘビーなドラムはいらないとされた意味。そして、歌手ごとの絶妙なマイクリレーと歌う順番が示す意味など、本書を読み進めて様々なことがわかってきた時、タイトルの「呪い」が意味することも頭に浮かんでくるはずだ。綿密な取材に基づいた力作である。

  


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