本書に詳しく紹介されているが、赤塚氏の支援を受けた居候生活は優雅そのものである。当時でひと月の家賃が17万円もする高級マンションに住み、赤塚氏所有のベンツを乗り回す。かなりの金額の小遣いを赤塚氏から得て、自由な生活を謳歌する。赤塚氏へのお礼などはしなかったが、2008年、赤塚氏が亡くなった時の弔辞でそれを果たす。当時話題になり、報道もされたので記憶している方も多いだろう。
私もあなたの数多くの作品の一つです
〈私はあなたに生前お世話になりながら、一言もお礼を言ったことがありません。それは肉親以上の関係であるあなたとの間に、お礼を言う時に漂う他人行儀な雰囲気がたまらなかったのです。あなたも同じ考えだということを、他人を通じて知りました。しかし、いま、お礼を言わさせていただきます。赤塚先生、本当にお世話になりました。ありがとうございました。私もあなたの数多くの作品の一つです〉
感動する文章である。筆者はこの弔辞を聞いたとき、タモリの文章能力の高さに敬服するとともに、どうしてこんなことが言えるのだろうと思っていた。本書を読んでタモリがテレビ界の寵児になる前の時代に、赤塚氏との間の濃密な関係があったことを知り、疑問は氷解した。
その後のタモリのテレビでの活躍は見ての通りである。「笑っていいとも !」 は、一時期、「●●してもいいかな」「いいとも」のかけ声とともに社会現象にもなった。高校1年生の頃、仲間とこの台詞をよく使っていたことを思い出す。
番組をあまり見ることもなくなったが、過去の共演者の顔ぶれを見ると、すごい面々であることがわかる。ダウンタウン、明石家さんま、SMAPなど。まさに今をときめくスターが、タモリとともに時代を作ってきたといえる。
タモリの足跡を通して戦後ニッポンの歩みを振り返るという本書の狙いは大いに納得できる。確かに戦後70年の歴史とタモリの人生は重なりあい、共感できる部分は多くある。「笑っていいとも !」の終了は、ひとつの時代の終わりともいえようが、タモリのその後の活躍を見ても、この人はまだまだ次元の異なる活躍を続けてゆけるのではないかと想像する。
タモリにインタビューすることは難しかったのかもしれないが、欲を言えば、やはり、タモリ自身が自分の70年の人生をどう語るのかを直接、聞きたいところであり、本書にも盛り込んで欲しかったと思う。ただ、時代を見る見方はこうした手法もあるのかということを強烈に知らしめてくれる貴重な一冊である。
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