そして9月1日、カンボジア近くのアランヤプラテート国境で「爆発物を置いていった黄色いTシャツの男」と思われる容疑者の身柄を拘束。カンボジアに向かう途中、林を歩いていたところの逮捕劇だった。容疑者のミラルリー・ユースーフー(26)は、新疆ウイグル自治区出身と記された中国のパスポートを所持。押収物からは、爆弾の数式を記した紙が発見されたものの、その後、DNA検査によってエラワン廟で使われた爆発物との関係性は否定され、警察は爆発物を作った人物ではないかとみて、捜査を進めている。
いまだ「なぜ事件が起きたのか?」が
明確になっていない
さらに2日、警察は南部のナラティワート県でタイ人男性のガーマルデン容疑者を逮捕。男はウイグル族の国外逃亡のためのドライバーをしていたという。
と、ここまでが6日時点で明らかになっている点である。警察は引き続き捜査を続けているものの、気になるのは「事件の背景」だ。現場から見つかった証拠から推測すれば、ウイグル族に関係性があるグループによる犯行の線が強い。にもかかわらず、警察は動機については明言を避け、いまだ「なぜ事件が起きたのか?」が明確になっていない。現地メディアによれば、このまま明かされない可能性もあるという。
現地紙「コム・チャット・ルック」は、今回の事件について「政府はウイグル族によるものとは断言したくないだろう。それは政府自らが招いた事件だと認めてしまうことになる」と報じている。2015年7月、政府はタイに入国しようとしたウイグル族約100人を拒否し、中国へ強制送還した。アメリカをはじめ、各国から批判を浴び、トルコのタイ領事館は政府の対応に反対するデモ隊に囲まれた。もし、今回の一件が、そのときの報復であれば、政府は「自業自得」だと言われかねない。
治安維持という目的のために政権を維持してきた軍政にとっては、顔に泥を塗られたも同じ。民政移管も一向に進まない状況で、さらなる批判が噴出することもありえるだろう。そのため政府はウイグル族だとは認めにくく、同紙は「ウイグル族を手助けしていた偽造パスポートを持つグループの犯行で済まされるかもしれない」とつづっている。
容疑者が次々と逮捕され、沈静化してきた今回の一件。バンコクの街も落ち着きはじめ、ようやく日常を取り戻した感もある。ただし、いまだ事件の真相が見えてこないのも事実。喉に刺さった小骨のように引っかかる点は、このまま解明されないかもしれない。
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