2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2009年9月29日

料金制度の欠陥

 このように考えるとき、現在の高速道路料金の設定方式には2つの基本的欠陥があることがわかる。その第1は「償還主義・償還後無料開放の原則」である。これは高速料金を高速移動に対応する追加的料金ではなく、場所間移動と高速移動の両方を含めた全体的効用に対するものとして決めているものであり、これは鉄道の場合の普通運賃と特急料金とを合わせたものを高速料金としているのと同じである(表1の高速道路①)。そのために現行の高速料金が高すぎることになっているのである。しかもその高い料金を一定の償還期限(現行では2050年8月15日)までの利用者の負担とし、その後の利用者の負担をゼロとしている。現行の原則の不合理は明らかである。 これに対して私の永久有料論は、高速道路についても場所的移動の効用への対価は無料とし、追加的な時間的効用についてのみ受益者負担とし、その対価を高速料金とするものである(表1の高速道路②)。

 第2の基本的欠陥は、高速料金は全国どこでも一律に1キロ当たり25円(普通乗用車の場合)と決めている「画一料率制」である。高速料金は高速走行の効用の対価であるという考え方に立てば、この画一料率制による現行の高速料金がいかに大きな地域間不公平をもたらしているかを数値的に示すことができる。それを例示したものが表2である。
いま高速道路が走行時速80キロで設計されており、料金を現行の1キロ25円として、代替一般道路の平均走行時速がA地域10キロ、B地域30キロ、C地域60キロと異なる3つの地域を考えてみる(表2①欄)。

 高速道路による高速移動の便益は、高速道路と一般道路の走行時速の差にあるから、各道路について1 キロ当たり所要時間を求めれば、高速道路の場合の0.75分(45秒)をはじめ②欄の数字が得られる。これから高速道路と各代替一般道路との所要時間差(高速道路より1キロ当たり何分多く時間がかかるか)を求めると③欄になる。この所要時間差で25円を割れば時間差1分当たりの料金コストが④欄のように求められる。

 この結果を見ると、代替一般道路が非常に空いていて時速60キロで走行できるようなC地域では、1分当たりの料金コストは100円と高く、それに対して、代替一般道路の混雑がひどく時速10キロのノロノロ運転のようなA地域では、1分当たりの料金コストは僅か4.76円であることがわかる。いいかえるとA地域では1分当たりの時間価値が約5円以上の人が高速道路を利用するのに対し、C地域では1分当たりの時間価値が100円以上の人でないと利用しないということである。そして高速料金100円当たりの短縮時間は、C地域の1分に対してA地域では約21分にもなる。このように画一料率制の下では、高速道路の利用者コストや便益は地域間で大きく異なることになり、A地域では大渋滞、C地域ではガラガラの高速道路が現れるのも当然である。これは社会的にも貴重なインフラである高速道路の最善の利用が実現しないという意味で損失である。そして地域により高速道路のコストや便益は大きく異なり、地域間で極めて不公平になる。

 以上のように考えると、高速道路料金をめぐる諸問題は単に有料であることによるものではなく、また無料化によって解決できるものでもない。問題は高すぎる料金にあり、受益と負担の適切なバランスがとれていない料金設定の仕方にある。それは償還主義のための料金の高水準と、画一料率制によって生まれている高速便益の地域間格差である。問題の解決には、償還主義を廃して永久有料制とし、かつ画一料率制を改めるという料金制度の抜本的な見直しが不可欠である。


新着記事

»もっと見る