2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年9月29日

 これではとうてい、まともな民営化とは言えない。「歪んだ民営化」、「偽りの民営化」ではないか。

 道路公団民営化にはさまざまな歪み、虚偽、虚構があり、それが上述のような政治による介入を許している。例えば、「採算性を無視した野放図な建設」、「必要性の乏しい道路建設」(民営化推進委『意見書』)は回避されるであろうという期待の下で行われた民営化なのに、「新会社の採算を超える部分」の建設スキームとして、「国と地方が税金等で建設費を負担し、自ら建設を行う」という「新直轄方式」が、これまでの有料道路方式と別建てで導入された結果、無料の高速道路が出現することとなり、高速道路は全部料金収入で建設するというわが国の有料道路制度の約50年ぶりの大転換が、十分な議論なしに行われてしまった。これにより強力な道路族の抵抗が消え、民営化が実現したのである。簡潔にいえば、「採算に合わず必要性の乏しい道路は民営会社はつくらない。その代わりに国がつくる」ということである。何のための民営化だったのかと問いたい。

 また、債務返済を最優先する方針から、いわゆる上下分離方式で、道路資産も債務も道路会社ではなく、高速道路保有・債務返済機構という独立行政法人に保有させ、機構は道路を会社に貸付け、その貸付料で債務を返済する仕組みとした。それにより会社は道路資産に対する固定資産税を免れるとともに、会社に料金収入からの利潤が生まれないように機構が貸付料を設定することで、法人税をも免れることになった。これらは通常の民営会社であれば社会的義務として当然負担すべきものだ。

 さらに、この仕組みは、会社の経営努力によって料金収入が上がっても、会社には利益が残らないように機構が道路貸付料を上げることで吸い上げてしまう。逆に会社が減収になっても赤字にならないように貸付料を下げてくれるのである。これでは当然経営向上のためのインセンティブが働かない。

 福田・麻生内閣が実施してきた料金値下げ政策は民営会社を国営会社のように扱っている。値下げによる道路会社の減収は、高速道路保有・債務返済機構というかくれ蓑を使って、国民に分かりにくいかたちで、税金で穴埋めされている。このように税金で支援を受けた高速料金値下げで不公平な競争を強いられているという鉄道会社やフェリー会社などの怒りは当然である。また、国民負担を最小にとどめるという道路公団民営化の約束を踏みにじられる国民も今や憤りの声を上げるべきである。

 このような歪んだ民営化を原点に戻って再検討し、前述した料金制度の見直しとともに、上下分離方式を廃してまともな民営会社に立ち直らせるべきである。これは、小泉民営化についての根本的な再評価・再検討が必要であることを意味しているのに、今回政権の座につく民主党も全くそれを宣言していない。

 無料化をマニフェストに掲げた民主党は首都高速と阪神高速を除き、実験で影響を確かめながら段階的に無料化を拡大していくとしているが、全面的無料化は実現不可能で、混雑などによるマイナスが大きく有料が続く路線が多く残り、公約が裏切られることは確実である。そして何よりも、無料化は高速での走行の受益者である高速道路利用者から非利用者も含めた国民全体へと負担を転嫁するだけであり、合理的な受益者負担の原則から外れる。また、衛星からの位置情報を利用して走行車輌に課金するというような技術進歩をベースに、高速走行の受益と負担を一致させる有料化への世界的動向にも逆行するものである。

 いわゆる「霞が関埋蔵金」、無駄使いされている税金、国債発行に無料化の財源を求めるとする民主党も、結局は国民全体に負担を求めることになる。「フリーランチはない」というように、世の中にタダのものはないということを私たちは認識すべきである。

※関連記事 : 高速料金騒動 本当の問題点は何?(2010年4月23日)

◆「WEDGE」2009年10月号

 

 
 

 

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