2022年10月7日(金)

WEDGE REPORT

2015年9月21日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 だが、少なくとも表向きは恭順な姿勢をとる不作為に対して、指導部側は目下、有効な手段をとることができず、手をこまねいているしかないのだ。

 7月29日の中国中央テレビ(CCTV)は、規律検査部門の発表を受けて「中国が18回大会以降、反腐敗キャンペーンで風紀を正した結果、387億元(約7740億円)の経済損失を回復した」と大々的に報じた。

 数字の根拠となっているのは、不正に受け取った賄賂や蓄財の没収、事業の見直しなどの積算だが、元国務院で現在は北京市でコンサルタント会社を経営する湯慶世(仮名)は、苦々しげにこう語る。

 「反腐敗キャンペーンが社会の安定のために必要なのはわかります。しかし、経済を犠牲にしていることはいまや誰もが知っていることです。こんな茶番を見せられると、かえって経済的なダメージが大き過ぎることに党が慌てていて、それを誤魔化すために報じたのかと勘繰りたくなります」

 事実、習近平指導部がぜい沢禁止令を打ち出すと同時に、中央規律検査委員会の下部組織である中央巡視隊が厳格に党規違反を取り締まり始めると、瞬く間に中国全土で高額商品の売り上げの落ち込みが顕著となった。

 なかでも最初に官官接待がターゲットとなったことで高級レストランやレジャー施設が各地で閉店に追い込まれた。北京郊外で高級サウナをオープンさせたばかりのオーナーは、「慌てて、老人ホームに変更するための手続きを始めた」と語るほどだった。高級レストランの相次ぐ閉店につられるように高級酒の売り上げも大きく落ち込んだ。

 ダメージが顕著となったのが、習近平指導部がスタートして最初に迎えた春節期だ。中国の春節は1年を通して最も消費が活発になる期間である。この一大商戦期(1月~2月)の飲食業界は対前年比で8.4%の伸びにとどまり、過去10年で最も低い数字となったのだが、なかでも年商200万元以上の高級レストランが改革開放政策を導入して以降初めてのマイナス成長に落ち込んで大きな話題を呼んだ。

 高級ブランド品の買い控えはそれ以上であったとされる。上海のテレビ局(上海RTS)のニュース番組が伝えたところによれば、高級ブランド品の春節期での売り上げは対前年比でなんとマイナス53%まで落ち込んだという。これを受けて、夏になると同じ上海のテレビ局が、地元の上海の一大観光スポットであるバンド(外灘)から、アルマーニやパテック・フィリップなど高級ブランドの路面店が「一斉に撤退を始めた」(上海RTS『東方新聞』13年7月16日)と空き店舗となった外観を映しながら報じた。

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