エコノミスト誌7月4-10日号が、7月1日に成立した中国の国家安全法は、国内統制に向けた法整備の一環だが、そこには中国共産党が不安を抱いていることが窺われる、と指摘しています。
すなわち、新たに全国人民代表大会で採択された国家安全法は、昨年成立した反スパイ法、近く成立の見通しの反テロ法、サイバー安全法、外国非政府組織管理法と共に、国内の統制を強化しようとするものだ。新法で目立つのは、想定する脅威の源がインターネット、文化、教育、宇宙空間と非常に多岐にわたる一方、文言が曖昧で詳細を欠いていることだ。詳細規定は後で補充されるかもしれないが、重要な文言が明確にされることはないだろう。曖昧な表現は習にとって有用な武器になるからだ。
その目的は、第1条に「民主的独裁体制と中国的社会主義体制を守ること」と記されている。党による権力掌握と国家の安全が同義として扱われ、国家安全の重点は国内の治安に置かれ、それを脅かすものとしてテロ等の通常の要因に加え、言論の自由やリベラル・イデオロギーがもたらす脅威が挙げられている。
習は、多くの反体制派を逮捕、ネット規制を強化し、ウイグル人テロを厳しく取り締まるなど、前任の胡錦濤より強い姿勢で治安維持に努めてきた。4月発表の草案と比べ、新法の最終文書は権力独占により重きが置かれている。
また、第15条は、国家権力の行使について抑止と監督の強化を要請している。一見「法の支配」を認めているかのようだが、目的は党の抑制であり、党の権力に枷をはめることではない。
もっとも、習の懸念には根拠がある。中国共産党はとうにイデオロギー的正当性を失い、経済的正当性も弱まりつつある。減速する経済、物価の上昇、増税などに、市民は不満を表明し、各地で抗議運動が起きている。何百万もの個人投資家の参入で加熱していた上海市場の株価暴落も指導層を不安にしている。
そこで、国家安全法は市民が守るべき義務を強調する。他国のこの種の法律は、国家機密の漏洩等、してはならないことを挙げるが、新法は密告も含めてすべきことを義務付けている。既に苦境にある政治活動家はさらに追い詰められるだろう。