2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年8月5日

 外国企業も不安を募らせている。新法は、国家には重要インフラや情報システムの「安全性と制御可能性」を確保する権利があるとしており、外国製品の使用の規制強化につながる可能性がある。企業に情報開示を義務付ける反テロ法や、外国NGOに警察への登録を義務付ける外国非政府組織管理法にも懸念が持たれている。国家安全法は香港にも国家の安全を守ることを義務付けている。当局は、新法は香港には適用されないと釈明したが、免除が永久に続く保証はない。国家安全法が中国の各方面にもたらした恐怖は当分消えないだろう、と指摘しています。

出典:‘Everything Xi wants’(Economist, July 4-10, 2015)
http://www.economist.com/news/china/21656689-new-national-security-law-hints-communist-partys-fears-everything

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 本論評が指摘するように、今回の中国の「国家安全法」の制定は、中国共産党が国家の治安維持に対し、不安を抱いている証拠であると言えます。あるいは、それは「不安」というよりは「恐怖」に近いのではないかと思われます。

 習近平は党総書記就任以来、党内の国家安全面では「国家安全委員会」を設立し、その委員長になり、党内の基盤を固めてきたと見られています。ただし、党内の権力闘争(「反腐敗キャンペーン」など)はいまだ収束しておらず、さらに共産党の枠を超えた軍、政、地方政府、ウイグル族・チベット族などに関しては、多くの不安定要素を抱えたままです。

 通常の国の場合には、本記事の言う通り、国家安全法の類の法律は「機密を漏洩してはいけないこと」などの禁止事項を書き込むのが普通です。しかし今回の中国の「国家安全法」は密告などを含めて多くの面で治安維持のために国民が行うべきことを義務づける形となっている点が特徴です。

 この法律は、反体制派の弾圧、ネット規制、ウイグル人テロへの対応などを主たる対象としているように見えますが、内容ははっきりしません。特に最近では、上海市場の異常な株価暴落と政府の下支え介入の失敗から生まれた経済リスクがやがて政治リスクに変わっていくのではないかという恐れが広がりつつあります。上海株の急落はすでに、株価操作の範囲を超えて中国の実態経済を揺り動かしつつあり、それがやがては国内の治安維持に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。

 この国家安全法は、香港、マカオのみならず、中国の統治下にない台湾をも対象としており、これら地域の市民たちが中国の治安を守るよう義務付けています。このような国内法の制定とその実施は、恐怖が恐怖を呼び起こすきっかけともなり得るものであると言えるでしょう。

  
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