2022年10月7日(金)

WEDGE REPORT

2015年9月21日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 酒造メーカーのダメージは株価に表れた。13年1月22日、習近平が中央規律検査委員会の第2回全体会議に出席し「予防の重視」と「総合的な取り組み」を厳しい口調で訴えると即座に株価が反応。酒造メーカー関連株の落ち込みは、同じ22日、上海と深圳の両市場の株価全体をそれぞれ0.56%、0.28%も押し下げたという。とくに高級酒として知られる茅台酒を中心にアルコール度数の高い白酒の落ち込みが深刻で、銘柄により最大で4%も下げたことも報じられた。

 メディアはこの後も高級白酒の五糧液や茅台酒の酒蔵が空になっている映像や仕事のない元従業員の声を拾っていたが、14年10月になると関心は海外─主に日本だが─での中国人観光客の“爆買い”へと移っていった。

 報道の焦点は、春節の次に重視される観光のハイシーズンである国慶節で、中国人観光客が国内で消費せず、海外ばかりで消費することに向けられていた。

 国内のメディアが一斉に報じた数字によれば、中国人の高額消費のおよそ74%が海外で消費されていたというのだった。

 こうした目に見える落ち込みに対して、経済のマクロコントロールを司る国家発展改革委員会(発改委)が対応策を検討するまでになった。

 「発改委はかつて王填という代表が提案したことのある消費券を景気刺激策として出してきて、『4兆元の消費券を配るべき』との7頁にも及ぶ報告書を全人代に提出したほどでした。彼らにしてみれば、経済の構造転換を進め始め、その最も太い柱として消費を育てようとしている矢先のことですから、影響の深刻さをかんがえたのでしょう。まあ、結局『消費券』なんてアイデアは一顧だにされなかったようですが……」(党中央機関紙記者)

 それにしても、経済にこれだけ影響を与える腐敗官僚追及の運動をどうして習近平は容赦なく続けるのか。

 「それは一方で、格差の問題が深刻だからです」と語るのは前出の党機関紙記者だ。

 「これは究極の選択です。反腐敗キャンペーンをしなければ経済の問題よりも先に、不満を持った人々による社会不安が現実のものとなるでしょう。習主席は経済を犠牲にすることを百も承知で、まずは社会の安定ということを徹底的にしようとしているはずです」

 まさに薄氷を踏む政権運営ということだが、国内に貧困と格差の問題がある限り、反腐敗キャンペーンが後退することはない。

  
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◆Wedge2015年9月号より

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