チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年10月1日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 「投稿」は「4回も繰り返したのは執政の基本が、人心の向背(支持と反対)であるからだ。水は船を運ぶことも、転覆させることもできる」と指摘する。民心を失えば、共産党も滅びうるということを示唆したものだが、民の「反乱」を極度に恐れる胡錦濤総書記の胸の内を見事に言い当てている。

民衆の暴動は激しさを増す一方

 4中総会に先駆けて、国営新華社通信発行の『瞭望』誌(9月7日号)は、最近はめったに公にしない群体性事件(集団抗議・暴動)に関するデータを記載した。

 「今年上半期、全国の群体性事件は前年比で増加した。05年以来、連続して下降した後、初めて反転し、その中でも500人以上の群体性事件の増加は高度警戒に値する。特にある地方で発生した重大群体性事件は参加した民衆が多く、中身は複雑で、やり方は激烈だ。対抗性や破壊性は強くなり、交通を遮断し党・政府機関を包囲・攻撃、さらに破壊・焼き打ちさえも行っている」。

 この文章は群体性事件の総数には触れていないが、05年は全国で群体性事件が年8万7000件(1日当たり238件)も発生。民の憤慨は一向に収まっていないことを同誌は暴露したのだ。役人や警察への個人的な小さな恨みに、何か偶発的な問題で火が付くと、その問題に直接関係のない周りの群衆までもが連鎖的に普段から溜めた鬱憤を燃え上がらせ、共産党体制への不満に発展するのが中国社会の危険な現実なのだ。

 『瞭望』は「近年発生する重大な群体性事件の教訓をくみ取るべきだ」と訴えたが、4中総会「公報」も「学習型政党」に変身するよう強く要求した。その背景には、「学ばないと(共産党は)落後するに違いない」(胡錦濤総書記)という強烈な危機感があるのは言うまでもない。

 胡氏らの頭には、農民らの反乱で弱体化、崩壊した明代(1368~1644年)・清代(1644~1912年)の末路が頭によぎっているだろう。

 中国歴代王朝崩壊は、腐敗や格差を是正できない専制政治に怒った農民・民衆ら「民」が立ち上がった歴史だ。明・清代にも「民変」と呼ばれる民衆の官に対する暴動が多発しているのも現在と酷似する。これを立証するかのように、中国政府シンクタンク・中国科学院の「持続可能発展戦略研究組」の牛文元組長は04年、所得格差の度合いを表すジニ係数(1に近いほど格差は大きい)を用いてこう指摘したのだ。

 「先進国は基本的に0.2~0.3の間で、わが国は0.4の警戒ラインを超えて0.45に達した」。明を滅ぼした李自成が農民反乱を蜂起したころのジニ係数は0.62、清末の太平天国の乱の際には0.58と言われる。数字の上では共産党も末期という見方もできるのだ。

 「中国には目に見えない民意がある。混沌の中で民衆が動いている」と指摘する溝口雄三東京大学名誉教授(中国思想史)は、筆者に「確かに今は明末・清末の状況と似ている」と述べ、「私的権益を主張する民衆の力が広がっている。民衆が経済に食い込みながら次の体制の担い手としての力を蓄えている時期だ」と続けた。

 共産党は「歴史」から学習する必要性を痛感しているとみられ、現に「最高指導者は、研究者の王滬寧中央政策研究室主任を呼んで中国史の学習会を行ってきた」(共産党筋)とされている。

民心を失えば自民党と同じ運命に

 このほかに「学習」の対象となっているのが自民党だ。前述の中央党校の王長江教授は、総選挙で自民党が大敗した翌日の8月31日、「人民網」に登場、こう指摘した。

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