科学で斬るスポーツ

2015年10月10日

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「ゲームは一つのストーリー」

 171cmと小兵ながら、外国人にひるむことなく、勝負への執念が極めて高い太田に対し、オレグは、天性のスピードや瞬発力も「充電しないとダメ」とさらなる上を目指させた。さらに「頭を使え」「敵を騙さなくてはいけない」と指導した。フェンシングは、15ポイントを先取した方が勝ちだが、ポイントを先行されているとき、あるいはリードしているときなど場面によって戦術は異なる。

 さらに、フェンシングは「騙しあいのスポーツ」と言われるほど、相手の裏をかいたり、意表をついたりする動きが欠かせない。攻撃だけでなく、防御の局面での得点も大事だ。「(剣を)突けても突けなくても1回でやめてしまうのが欠点。1回でダメなら2回、3回と突かなくてはいけない」と太田に試合の流れの中で、刻一刻と変化する情勢を読み取る重要性を説いた。

 こうした指導を太田は乾いたスポンジのように吸収し、体現した。太田は「オレグに繰り返し『頭を使え』と言われるうちにだんだんロジカルになってきた。論文を書くのと同じで、今まで箇条書きで書いていたものが、書き出しがあり、事例があり、結論があるというふうにかけるようになってきた。つまりゲームメークができるようになってきた。

 1セット15分勝負を今まで15個のバラバラなものとして捉えていたのが、一つのストーリーとなり試合を読めるようになった。物ごとというのはひとつひとつの輪っかとなり、つながっているというイメージになった」(同書)と語る。こうしたコーチの言葉を自分なりに咀嚼して言語化できる「頭の良さ」と、それを実際のゲームで実行できる能力がモスクワで開花したと言えよう。

戦術分析の貢献

 太田、オレグの存在は、日本フェンシング躍進の重要な要素の一つであるが、それだけではない。「マルチサポート戦略事業」による技術サポートもその一つだ。

 その代表がITを駆使したパフォーマンス分析である。

 その前に、戦術ともかかわるので、フェンシングのことを簡単に説明しておこう。フェンシングは3種目あるが、基本は剣を相手の体(有効面)に、一定の力、時間で突いたり、斬ったりしたときにポイントを獲得する。

 太田らが実績を残すフルーレは突きのみで、有効面が胴体で、最も狭い。体の小さい日本人らアジア人に有利とも言われる。胸側だけでなく背中側からついてもかまわない。わかりにくいのは、攻撃権(優先権)のある選手しか得点できないという点だ。攻撃権は、互いに相手に向けて剣を突き合わせた選手のうち、先に腕を伸ばし、剣先を相手に近づけた選手に与えられる。この際、相手が剣を払い剣先を逸らせたり、逃げ切ったりすると攻撃権が移動する。攻撃権を持った状態で有効面を突くと加点される。どちらに攻撃権があるか、攻撃権がないときどう動くか、審判はどう判断するかなど戦術的に考えなくてはならない側面がある。

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