エペも突きのみで、全身が有効面だ。ただ、攻撃権はなく、先に突いた方が得点。両者同時の場合は両者が得点となるなどわかりやすい。
残りのサーブルは、ハンガリーの騎兵隊の剣技が由来。フルーレとエペと異なり「突き」以外にも「斬り(カット)」があり、有効面は上半身のみ、フルーレと同様に攻撃権が設定される。
パフォーマンス分析は、まず試合を撮影することから始まる。文部科学省が日本スポーツ振興センターに委託し、実施している「マルチサポート戦略事業」の一環として、フルーレの分析を担当する千葉洋平さんによると、年間大きな大会は11ほどあり、約2000試合を撮影するという。相手選手の得点力、防御力、攻め方、失点時のパターン、動き、剣さばきなどを分析し、その結果をコーチにフィードバックする。
特に攻撃権があるフルーレでは、攻撃権をどうとるのか、攻撃権を持ったときどう動くのかなどが大事。それをもとに戦術に生かす仕組みだ。分析には、リアルタイムのデータ提供などにも威力を発揮する「Sports Code」、画像分析に使い勝手のよい「Handbook」などIT機器を活用している。コーチや選手全員にはiPadが貸与され、見たいときに、見たい相手の試合の映像などをピンポイントで見られる。実際、選手は試合直前にも画像を見て、ゲームメークの組み立てに役立てている。
千葉さんは2009年から日本フェンシング協会に依頼され、サポートを担当し、2012年のロンドン五輪にも帯同。そのパフォーマンス分析が、男子フルーレ団体銀メダル獲得の原動力にもなったという。
その好例が、準々決勝で当たった世界2位の中国戦だ。ロンドン五輪における上位国の身長の平均は183cm。これに対し日本選手は10cm低い173.3cmしかない。フェンシングは腕の長い身長の高い方が有利だ。これを跳ね返すには、戦略、戦術が重要になってくる。中国選手の中で最大の難敵は、個人戦で金メダルを獲得した雷声(シェン・レイ)。193cmの長身から繰り出す多彩な攻撃に日本選手は翻弄され、一度も勝ったことはなかった。
ちなみに団体戦は1チーム3人が総当たり(計9セット)し、1人1セット3分間、上限5点で競われる。1セットで5点に達しない場合は、次の味方の選手に持ち越される仕組み。45点に先に達した方が勝ちとなるが、9セットで達しない場合は得点の多い方が勝ちとなる。
千葉さんらは映像解析である特長をつかんだ。「雷声は8割近くがアタック(攻め)からの得点。通常の選手は5割、残りは防御になるのが普通だが、違っていた。そして体が近くになっても背中からでもつく特長があった。防御が少ないと分析し、フェイント、フェイントを繰り返し、攻撃が終わったら攻める戦術(コントルアタック)をとった」という。相手を騙すような攻撃を繰り返した結果、攻撃が面白いように決まったという。圧巻は千田健太。第4セットで一気に10得点を獲得、劣勢を跳ね返し、45対30の歴史的な勝利につながった。勢いは準決勝のドイツ戦でも続いて、初の決勝進出を果たした。
今もこうしたパフォーマンス分析は続き、千葉さんは世界を飛び回る。