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2015年10月10日

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世界の中での日本

 日本では現在フルーレの活躍が目立つが、エペなどでも有望な選手が出ている。しかし、メダルが期待されるのはフルーレだ。ただ、来年のリオデジャネイロ五輪の出場枠は極めて厳しい。個人はランキング上位16位までは出場できる。太田は現在2位だが、淡路50位、千田54位、藤野56位。個人戦への枠を増やすには、団体戦で出場することが近道。団体戦に出場すれば枠が3人に膨らむからだ。フルーレ団体はランキング上位4チームと各大陸1チームの計8チームが出場権を持つ。日本のランキングは、現在8位。アジア・オセアニア地区には、上に中国5位、韓国6位がいて狭き門である。最終的なランキングの決定は来年3月。今後どういう戦いをしていくか目が離せない。

 日本が今後強くなるためには選手層の拡大と優秀な指導者の育成が欠かせない。日本フェンシング協会によると、2014年度の選手登録者数は5756人。数字だけ見るとさびしい限りだが、太田の五輪銀メダル獲得以降には右肩上がりで増え続けている。アジアのライバル、韓国、中国はどうなのかというと、韓国の場合、フルーレだけでなく、エペ、サーブルの3種目とも強い。これは社会人リーグのような基盤があり、選手生活を続けられるからだという。今から30年ほど前から強化に取り組み、外国人コーチらを招聘した。現在はその時に指導された韓国人選手が、指導者になって後進を育てている。中国も同様だ。

急速に成長する若手育成

 日本は韓国のような社会人リーグはなく、競技のすそ野を支えているのは、各地のクラブや学校での部活。日本フェンシング協会でも次世代を担う若手育成に力を注ぐ。オレグコーチと並び選手育成の車の両輪となっているのが、青木雄介コーチだ。2008年から始まった、有望な中高校生を育てるJOCエリートアカデミーの指導に当たる。東京・北区にある国立スポーツ科学センターの中にはフェンシングの試合場となるピスト(幅約1・5m、長さ14m)が8面とれる専用練習場が整備され、アカデミー所属の選手は近くの学校に通いながら毎日、練習できる。時には、太田選手ら全日本代表と一緒に汗をながすこともある。

青木コーチ

 「ロンドン五輪の団体銀メダルは、ここで育った若手が台頭した。三宅、淡路は、太田が銀メダルを取った時、まだ高校生。彼らは、太田の高校時代の成績を上回って代表入りしている。こうした三宅や淡路に続く選手が少しずつ増えている」と青木コーチは指摘する。

 各地ですそ野は拡大しつつある。一つは福岡県のタレント発掘事業だ。2004年から始まった事業で、3次にわたる選考会を経て、県内の小中学生の中から運動能力にたけた選手を見つける。もともとやっていたものと異なる競技で適性を見出し、国際大会で活躍する選手を育てる狙いがある。今では一次選考会には8000人以上が応募する。ここで発掘され、フェンシング日本代表になったのが、高校生の向江彩加、高嶋理沙だ。現在エリートアカデミーに所属している。昨年、そろって韓国・仁川で開かれたアジア大会のエペ女子代表として出場した。向江はテニス、高嶋はソフトボールからの転向組だ。

高校生のフェンシング試合風景(百瀬洋氏撮影、本文と関係なし)

 もう一つは秋田県の2010年度から始まったフェンシングに特化した「AKITAスーパーわか杉っ子発掘プロジェクト」だ。バルセロナ五輪代表で、北京五輪のコーチを務めた秋田市職員の安倍欣也さんらが指導に当たる。これまで16人が認定され、10人が国際大会に出場している。

 現在、フェンシングは13~16歳の「カデ」、17~20歳までの「ジュニア」の部門別に分け、大会などを開催している。切磋琢磨し、若手選手の技術や精神的な強さは着実に向上している。しかし、最大のネックは彼らを教える指導者の不足だ。

 青木コーチは「我々は、選手育成はもちろんだが、指導者育成にも力を注いでいる。協会が2003年から中高生対象に行う「NAVI(ナビ)」もその一つ。普段指導に当たるコーチにも参加してもらっている。我々の次、世界で活躍した太田らが指導者になった時、大いに花開くことになる。彼はきっといい指導者になるだろう。そのためにも、科学的な情報戦、頭脳戦、心理戦にも勝てるような選手を育てていくことが今の目標だ」と話している。

  
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