2024年4月20日(土)

サムライ弁護士の一刀両断

2015年10月22日

 にもかかわらず、今回の不正は欧州ではなく米国で発覚した。これを受けてEUでは、当局の規制のあり方に対して批判が高まっている。EUでは2007年に実走行での排ガス検査を定める立法がなされたが、これは現在もまだ実施されておらず、さらに実施延期が検討されている。自動車業界の強力なロビー活動がこの背景にあると言われている。また、EUの当局が以前からVWの不正を把握していたのではないかとの疑いも出ている。

 一方で、EUレベルでは今回VWが用いたようなソフトウェアが2007年に禁止されたにもかかわらず、この禁止を実行する義務を負っていた各加盟国がその義務を怠っていたとの指摘もある。EUでは、1つの加盟国で認証を受けた車両は、EU全域で販売が可能となる。この認証台数を増やす(すなわち手数料収入を伸ばす)べく、各加盟国で認証手続を手加減するインセンティブが働いているのではないか、との懸念がある。実際、例えばVWグループのシュコダ(Skoda)は、チェコで生産した車両をわざわざ英国に運んで認証を受けているとのことである。EUで問題となることが多い、加盟国間のいわゆる「race to the bottom(最低基準への競争)」の一例といえる。

 欧州でのVWに対する動きとしては、ドイツの司法当局、フランスの環境当局及びイタリアの競争法当局による調査が開始されている。ドイツでは、9月28日に、独VWのCEOをその5日前に辞任したばかりのヴィンターコルン氏を含む経営陣に対して刑事捜査が開始され、10月8日にはVW本社その他の関係先で捜索が行われた。

エンロンを上回る不祥事

 VWは、リコール費用として約8900億円を計上したとされている。これだけでも莫大な金額であるが、予想される制裁金や損害賠償金を合わせると、さらにとてつもない金額に達することになるであろう。それだけでなく、各国当局対応の負担、そして何よりもVWブランドの失墜は、規制潜脱の対価としてあまりに大きなものである。今回の不正は、規模や悪質性であのエンロン事件を上回るとも評されており、他社にとってはコンプライアンス(法令遵守)の重要性を示す貴重な教材である。

  
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