米国で莫大な制裁金と賠償金を課される可能性
深刻なのは、不正が最初に発覚した米国である。不正の発覚を受け、前述のEPAとともに、カリフォルニア州の大気資源委員会も、同時並行でVWに対する調査を開始している。調査結果によってはVWに民事制裁金が課される可能性があり、その金額は最大で約2兆1600億円にもなり得ると報道されている。
米国司法省も、VWに対する刑事訴追に向けた捜査を開始した。また、米国議会の下院では10月8日に公聴会が開かれ、米国VWの社長が出席して約2時間半に渡り証言を行った。公聴会は今後も開かれる予定である。
さらには、米国ではユーザーによるVWの提訴が続出している。いわゆるクラスアクション(集団訴訟)である。日本では考えられないことであるが、米国では、前述のEPAによる発表のわずか数時間後に、シアトルの法律事務所が最初のクラスアクションを提起した。その後提訴の数は増え続けており、最終的には数百件になると予想されている。
何年にも渡るクラスアクション対応
米国では、原告側専門の弁護士(plaintiffs bar)というジャンルが確立している。これらの弁護士は、企業に対するクラスアクションの提訴に特化しており、企業の不祥事が発覚すれば着手金なしでとにかく訴えを起こす。その後、自己の事務所のウェブサイトなどで原告となる条件を満たす人々(クラス構成員)を募集し、訴訟の規模を拡大していく。最終的に大規模訴訟となったクラスアクションで得られた多額の賠償金などから、事件によっては数十億円にも及ぶ報酬を手にする。クラスアクションは、原告側弁護士にとって一攫千金を狙う一大プロジェクトなのである。
そのため、今回のVWのような不祥事が明らかになると、クラスアクションが全米各地で提訴される。これらの訴訟は、7名の連邦判事で構成されたMDLパネルと呼ばれる機関の決定によって、いずれ1つの裁判所に集約される見込みである。その場合、集約された訴訟で代表を務める原告側弁護士(クラス弁護士)が裁判所から選任される。前述の莫大な報酬を受け取ることができるのは、このクラス弁護士として指名された弁護士である。そして、この指名を受けるための要素として、クラスアクションを進めるために費やした労力などが考慮されるため、我先にと提訴がなされるということになる。