2024年12月22日(日)

サイバー空間の権力論

2015年11月12日

 前回は自動運転などのより高度かつ領域横断的な産業の発展を背景とした、IT企業、ネットセキュリティ企業、ハッキングに対応する保険企業、そして従来の自動車業界の4つの産業の連携可能性について論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5437)。フォルクスワーゲン問題で揺れる自動車業界だが、数十年先の自動車産業はさらに複雑性を呈するだろう。

 業界全体にとっての大きな問題といえば、昨今のネットと広告、とりわけ広告業界に激震が走っていることを読者はご存知だろうか。今回は広告のあり方をめぐる「ネイティブ広告問題」や、ネット上のヘイトコメント問題から、我々を取り巻く感情市場について考察したい。

ネイティブ広告、ノンクレジット広告とは何か 

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 数年前に流行った「ステマ」という言葉がある。ステルスマーケティングを意味するステマは、芸能人などが企業からもらったものをその事実を伏せて広告塔になったことが発覚し、人口に膾炙した。一見口コミを装っていることが不当な行為として問題となったことは記憶に新しい。

 現在問題となっているのはステマの一種で「ネイティブ広告」と言われるものだ。ネイティブ広告を一言でいえば「一般記事風の広告」であり、普通の記事のようにユーザーが読みやすい記事である。しかし、記事内で取り扱う対象が実際は広告主から金銭を介しており、そうした記事の一部には金銭の存在を隠したままのものが存在する。それらはネイティブ広告の中でもさらに「ノンクレジット広告」と呼ばれており、大きな批判を浴びている。ステマ、ネイティブ広告、ノンクレジット広告と、これまで曖昧だった広告のあり方が大きく問われているのだ(本稿はとりわけノンクレジット広告に焦点を当てているが、全般的な問題としてノンクレジット広告を含めたネイティブ広告の表記で論を進める)。

 事の発端は2015年5月12日、サイバーエージェントが、自社の子会社である「サイバー・バズ」が広告である旨をクレジットしていないネイティブ広告(ノンクレジット広告)を4件代理販売していたことを発表し、謝罪したことにある(http://japan.cnet.com/marketers/news/35064402/?ref=rss)。

 ネイティブ広告に対しては一般社団法人「日本インタラクティブ広告協会(JIAA、旧インターネット広告推進協議会)」でも議論されており、ネイティブ広告のガイドラインを作成し、広告表記や広告主の明示をするようにしている。ただし、実際には必ずしも守られていないものも多く、業界ルールであって法的拘束力はない(http://japan.cnet.com/marketers/interview/35062861/)。この問題では、サイバーエージェントが旧JIAAの会員企業であり、ガイドラインにも関わっていたこともあったことから大きな反響を呼んだ。

ネイティブ広告にNOを突きつけたヤフー

 ネイティブ広告問題にいち早く着手した大手企業のひとつに、ヤフーが挙げられる。同社は7月30日のブログで、「Yahoo!ニュース」と記事提供契約を結ぶ一部のニュース提供社によるネイティブ広告(ヤフーは「ステマ」や「ノンクレジットのネイティブ広告」と呼ぶ)にたいして、「これらの行為について、積極的に排除し、撲滅したい」と述べた(http://staffblog.news.yahoo.co.jp/info/20150730.html)。

 ヤフーはネイティブ広告を優良誤認として景表法違反に問われる可能性もある悪質な行為とみなし、読者や広告主、サービスそのものの信頼を損なうものだと説明し、それらの行為が発覚した場合はニュース配信契約を打ち切ると発表した。

 ネイティブ広告を広告の新しい形であると主張していた一部の業界人に対して、ヤフーはNOを突きつける。当然といえば当然ではないか。消費者であるユーザーは広告と意識することなしに、消費行動の論理を埋め込まれていることになる。通常の広告は、それが消費行動の惹起であることを意識させるために広告である旨をクレジットする。ヤフーは従来から広告表記の有無にかかわらず記事広告やタイアップ記事の配信を禁止していたが、それらの存在を意図的に隠すノンクレジット広告はもはや広告というよりも一種の感情操作とも言える。

 消費者が広告と思わないまま広告を見せられるということは、広告と消費者の間の信頼関係を損ねることになる。もちろん、広告と広告でないものの境界が曖昧であることは以前から指摘されており、その点に関しては個々に議論が必要である。いずれにせよ、企業倫理を問われることにもなりかねないところに、ヤフーの判断があったわけだ。(広告の表記問題については現在もさらに問題が拡大化しつつある。http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20151103-00051076/ 参照)。


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