前回は人工知能の歴史的発展を追うとともに、人工知能が我々の未来にどのように関与し得るかについて論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4802)。相関関係で示される未来予測に満ちた社会において、我々はどのような感受性を持ち得るのか。人工知能の技術発展が進めば進むほど、人間の意識に関する哲学的・宗教的な議論が不可避のものになるだろう。
技術発展は時に様々な問題を引き起こす。今回は、ISIL(いわゆる「イスラム国」)が引き起こしてきたサイバー空間における様々な事件を現状においてまとめておきたい。日本人人質事件以降、日本においては一時より報道は少なくなってきたとはいえ、彼らの活動は世界中の人々の胸に暗い影を落としている。ISILのこれからを考察する上でも、今回はISILのこれまでを確認しておきたい。
SNSを使って世界中で勧誘工作
ISILはインターネットを用いたプロモーション戦略に優れていることが様々なメディアで取り上げられている。その残虐さを見せつけた日本人人質の殺害に関する動画や、ヨルダン軍のパイロット焼殺のそれが一つ。彼らはYouTubeをはじめとした各種動画サイトを通じて世界中に配信する。
また彼らはアラビア語だけでなく、英語等のパンフレットをpdf形式で作成することで自分たちの活動報告や活動理念をネットにアップしているが、それらのクオリティが高いことが注目されている。
さらに、TwitterやFacebookといったSNSにいくつものアカウントを開設し、世界各国の若者を対象に接近し、ISILの活動に参加を呼びかける「勧誘」活動が継続して行われている。アメリカのブルッキングス研究所の調査によれば、2014年の9月から12月までに間に、少なくとも46000件のTwitterアカウントがISIL関係者やそのサポーターによって開設され、PRや勧誘にそのアカウントが利用されたというのだ(http://www.brookings.edu/research/papers/2015/03/isis-twitter-census-berger-morgan)。
こうした活動によって実際、主として欧米やアフリカ諸国の若者がISILの活動範囲であるシリアやイラクへと渡航していることが知られている。その原因としては、貧困故に裕福さをアピールするISILを「職場」として参加する者であったり、イスラーム圏から先進国に移住したものの、移民への差別を受けた移民2世、3世の怨恨をベースにした動機が見受けられる。