2024年12月11日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月10日

 エコノミスト誌2月7-13日号は、対「イスラム国(IS)」作戦の戦況はまだ流動的だが、有志連合が徐々に前進しているのに対し、IS側には後退局面も出てきており、最近のISの極端な残忍性は焦りの表れかもしれない、と報じています。

 ISによる、人質のヨルダン人パイロットを焼殺した様子を撮ったビデオの公開には、潜在的参入者にアピールし、敵を威嚇、挑発し、有志連合に亀裂を生じさせる思惑があったと思われるが、ISは計算を誤ったかもしれない。人質のパイロットのために空爆を控えていたヨルダンは、ISへの「厳しい」対応を宣言、有志連合に加わることに批判的だったヨルダン国民もISへの怒りと復讐の念で結束し、他の過激組織でさえ怒りを表明した。

 一方、有志連合は徐々に前進している。8月の最初の空爆以降、作戦行動範囲を広げ、クルドやイラク政府軍に訓練や武器を提供するようになった。米中央軍司令官は、これまでにISの戦士約6000人が殺されたと言っている。1月末には、シリア・クルドが、有志連合の空爆に助けられて、4カ月の苦しい戦いの末にコバニからISを追い出した。

 ISはこの戦いで戦士千人以上を失ったようだが、それ以上に打撃だったのは、無敵というオーラが崩れたことだろう。ISは今もシリアとイラクでヨルダンに匹敵する領域と人口を支配しているが、イラクのシーア派地域やクルド地域には進出できず、エルビルやバグダッドを脅かすことはもはや手に余るようだ。

 ただ、ISは、イラクで押し返されれば、シリアで支配領域を広げようとするだろう。シリアでは、空爆の回数を増やす以外に有志連合が出来ることはあまりない。有志連合は、シリアとの錯綜した利害関係、とりわけアサド政権をどう処置するかという問題を解決しない限り、ISを封じ込めるのがせいぜいだろう。

 地上の戦況もまだ流動的で、イラク政府軍とISは一進一退を続けているが、イラク政府軍とシーア派勢力は、ディヤラ県に残っていた拠点からISを追い出し、ISはその北方でも後退しつつある。空爆と地上でのイラク・クルド軍の攻撃により、ISはモスルの西方から追われ、シリアからの補給路も断たれた。しかし、モスル奪還を考えるのは時期尚早だろう。

 財政面でも有志連合はISに打撃を与えることにある程度成功しつつある。空爆で製油所が破壊され、ISの石油収入は昨年6月時に比べて3分の1(1日当たり75万~130万ドル)に激減した可能性がある。また、昨年は人質を生かして身代金を稼いだが、今は人質を殺している。ISのシリア司令部があるラッカの住民によると、給料は支払われているが、電気水道等の供給は枯渇しつつあるという。


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