今年、1月11日。1月7日に起きたシャルリー・エブド紙襲撃に始まる一連のテロ事件を受け、370万人という戦後最大のデモがフランス全土で行われた。そして、13日。今度は事件をうけて招集された臨時議会で、バルス首相の1時間にわたる演説に先立ち「ラ・マルセイエーズ」が大斉唱された。バルスは内務大臣時代にイスラム教徒(ムスリム)とロマ(通称ジプシー)の排斥で名をあげた社会党の議員。仏革命時に作られた国歌ラ・マルセイエーズが議会で斉唱されるのは、1918年に第1次大戦でフランスが勝利して以来、初めてのことである。
演説の中で首相は、「我々はテロに対する、イスラム原理主義に対する、急進的なイスラム勢力に対する戦争に入った」と述べ、「フランス版愛国者法(パトリオット・アクト)」の内容を8日以内に検討すると発表した。同議会ではイスラム国(ISIL)空爆継続を可決した他、翌14日には、仏海軍の主力空母「シャルル・ドゴール」を空爆に参加させる意向も表明。内閣は21日、国内治安維持のために今後3年間で7億3500万の予算確保、内務省・司法省あわせて2670人のテロ対策人員の増員(うち1100人が諜報業務)、搭乗者名記録制度の導入、盗聴法の強化、テロ犯罪者および容疑者のデータベース作成など具体案を提出した。
事件後、オード県やタルヌ県ではムスリムの礼拝施設に銃弾が撃ち込まれ、ローヌ県ではモスクに隣接するスナックが爆破されるなどイスラム教を標的とした事件も多発している。また、昨年11月に罰則が強化されたばかりの「テロ擁護罪」の適用により、ムスリムの少年や若者を中心とした逮捕が相次ぎ、1月19日までに起訴されたケースは全国で117件(うち禁固刑12件、実刑判決7件)。アムネスティと司法組合が事態を憂慮する声明をだすまでに至っている。
しかし、パリでイスラム系のテロが起きたのは、今回が初めてではない。95年から96年にかけて、地下鉄の駅で複数のテロが起き、死傷者が出たが、デモもラ・マルセイエーズ斉唱もなかった。