エコノミスト誌10月11-17日号掲載の記事が、中東で国家崩壊が続き非国家勢力が台頭しているのは包括的な統治機構が創られなかったためだが、「アラブの春」を凌いだアラブ諸国は、今回も政治改革ではなく、強権化の道を選んでいる、と指摘しています。
すなわち、中東では、国家崩壊はもはや異例のことではなく、非国家主体が政府に挑む、政府を倒す、あるいは政府を強権化に追い込むなど、支配力を強化し始めている。他方、彼らと戦う「政府軍」も、正規の軍から自警団・マフィア的ギャング団・イラクやレバノンから呼んだシーア派民兵の混合物へと変貌した。米国対「イスラム国」(IS)の攻防において、地上で戦っているのは、軍ではなく、民兵同士である。
中東で非国家勢力が突如台頭したことについては、アラブ諸国が欧州諸国により策定された国境に基づく人為的国家だからである、とよく言われる。ISも、今の中東の基礎となった英仏によるサイクス・ピコ協定の排除を宣言している。しかし、国家の崩壊という事態を引き起こしたのは、領土や国境等の外面的要素よりも、国家の在り方という内面的要素の方である。不安定でありながら、支配への強迫観念にとりつかれた政府は、多くの場合、人々を国家の中に統合することに失敗してきた。
中東の主たる政治イデオロギーであるアラブ・ナショナリズム、政治的イスラム、そして、今日の暴力的ジハーディズムは国境を超越するのに、アラブの支配者たちは、全ての意思決定を中央に集中させ、分裂や相違を醸成・悪用し、国家権力を用いて政治的挑戦を潰してきた。その一方、まともな公共サービスを提供せず、宗教組織や慈善団体が政府の代わりを務めた。その多くは保守的な湾岸諸国を資金源としていた。
しかし、過剰に中央集権化された、一党あるいは一族独裁国家が崩壊すると、社会的結合を再建する仕組みが無くなり、宗派・部族・民族間の小さなひびが急速に大きな亀裂に拡大し、そこに外部勢力がつけこんで影響力を行使しようとした。無害に見える外部からの援助ですら分裂を悪化させた。シリアでは、アサド打倒を目指す反政府組織同士が、援助の獲得を巡って対立するようになった。他方、「アラブの春」を切り抜けたアラブ諸国は、そこから間違った教訓を引き出し、政治改革の推進ではなく抑圧機関を強化する道を選んでいる、と報じています。
*出典:‘The rule of the gunman’(Economist, October11-17,2004)
http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21623771-why-post-colonial-arab-states-are-breaking-down-rule-gunman
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この記事は、現在の中東地域の混乱を、国家の崩壊、非国家勢力の台頭という視点でとらえています。その認識は的確であると思います。