サイバー空間の権力論

2015年11月12日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

ヘイトコメントの感情的惹起にどう対処するか

 ネイティブ広告問題が無意識の感情にかかわる誘導であると捉えるならば、ヤフーがその後発表したもうひとつのアクションは、意識的な感情操作への抵抗でもある。ヤフーは2015年9月3日、国内最大級の中国情報サイト「サーチナ」との契約打ち切りを発表した。ヤフーが提供する「ヤフーニュース」は月間約100億ページビューという圧倒的な数字をもつ国内最大のニュースサイトであり、掲載されるニュース記事も、新聞や雑誌、ネットニュースサイトなど、約200社、300媒体との配信契約をしている。

 ヤフーはネットニュース界における最大手であるが、このページビュー数は、少なくとも人々の目に触れるという意味においては、数百万部の購読者数という世界的にもトップレベルの新聞社の影響力と比較しても引けをとらない。ヤフーのトップページに数時間ごとに入れ替わるトップニュースの閲覧数は、おそらく日本でもっとも読まれる記事のひとつと考えられるだろう。実際ヤフーから配信される記事は多くのユーザーが目にするがゆえに、定期的な記事配信の中止は打ち切られた側には大きな打撃となる。

 ところで、10年以上続いたサーチナとの関係打ち切りの原因は何だったのか。ダイヤモンド誌が複数の関係者に取材したところによれば「当初は中国ニュースや金融情報を提供していたが、最近になって嫌韓や嫌中のニュースが増えて問題になっていた」とのこと(詳しくはhttp://diamond.jp/articles/-/78767を参照)。

 もともと韓国や中国が日本を嫌っている、といったニュースは人気が高く、ヤフーニュースでも閲覧数ランキングそうしたニュースが多くなったこともあったという。もちろん個人の主義主張はそれ自体確保されなくてはならない。ただし、表現の自由が保障されているとはいえ、昨今のヘイトスピーチや難民に対する揶揄、中傷表現など、日本の言論を取り巻く環境が変わりつつある現状において、論理的にも無根拠なヘイト言説は、理性以前の感情に強く訴えかけている。嘘でも言い続ければ真実になる、と先人が述べたように、感情をフックにした言説は世論に大きく影響する。

 だが、ページビューが収入につながるとはいえ、このままではニュースの品質が劣化すると考えたヤフーはついに契約解除をしたという。その後もヤフーは類似した手法を取っている他の契約メディアにも水面下で警告を出している。サーチナの契約解除とは別に、ヤフーはニュースに対するコメント機能のあり方について、ブログで説明をしている(http://staffblog.news.yahoo.co.jp/newshack/yjnews_comment.html)。

 ヤフーニュースにはコメントがつけられるが、中にはヘイトコメントも多いのも事実であるが、それでも「みんなの意見」を重視して、24時間体制で巡回しているとのこと。その上でブログでは、ヘイトコメントにはより厳しくした基準であたっていくと宣言している。 

 とはいえ、問題は簡単ではない。「不快な用語」「偏見に基づく人種差別」「極端で乱暴な言動によるレッテル張り」といったコメントに対する厳しい基準は必須であるが、線引きが難しいのも事実である。9月上旬にシリア難民に対する揶揄を目的としたイラストが大きな議論を呼んだ。Facebookに当該イラストを投稿した漫画家のはすみとしこ氏に対して、Facebookの規定(人種や民族、出身に対する差別発言を削除する)を根拠に、はすみ氏のアカウントの削除を求めるネット署名が行われているが、Facebookが削除に消極的な態度であることも、上記の問題が関係している。

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